2006年10月21日放送 

山寺喜成さん 宮崎敏孝さん

災害に強い山づくりA

伊那谷豪雨災害の教訓をいかす

植林といえば、ポットなどの容器の中で苗を生育させ、それを山に植えかえる作業が重ねられてきた。しかし、今年7月末に上伊那を襲った豪雨災害で、植林された山の弱さが災害を誘発したことが明らかになり、天然林の姿にできるだけ近い山の作り方が注目されている。
信州大学農学部特任教授の山寺喜成さんと同大学農学部砂防緑化工学研究室主任助教授の宮崎敏孝さんは、植物の自然な生育を促すために最も重要な要素の一つ、「直根」をたくましく育てる保育ブロック工法による強い山づくりを研究。現在、中国などの乾燥地帯で成果を上げている。今回の上伊那での災害で、直根が伸びていない植林された山の弱さを目の当たりにし、直根を伸ばすことの重要さを再認識したという。
今回のいなまいニューススタジオは、前回に引き続き山寺さん、宮崎さんに、災害に強い山作りについて聞く。(崩れなかったアカマツの直根(左から武田徹キャスター、宮崎さん、山寺さん)。山寺さんが示す上方まで土壌があった)

重力の方向に伸びる根
武田 直根が大切だということに気づいたきっかけは。
山寺 自然の現象とはどういうものか、自然とはどういうものか―ということです。傾斜になった時に根はどのように伸びるか、堅い土の場合はどうかなどを研究しているうちに、根の自然本来の姿とは一体どういう姿か―ということを追求しました。気づいたことは、植えたものは自然本来の姿にならない、ということです。そこから、より詳しい研究を始めました。昭和40年代のことでした。
武田 その時、植林された日本の山の不自然さにも気づいて―。
山寺 それはずっと後になってからですね。山の急斜面にも植物は生えています。それは落ちたり倒れてきたりしない。例えば、道路を作って、法面に植物を育てようと思うと、穴を掘って植えても崩れやすい。でも、天然のものは急斜面でも崩れない。どこが違うのだろう、というところからでした。天然、実生で生えてきたものは崩れない、植えたものは崩れる―。そこで、根を比較したところ、違いは根にあったということです。
武田 保育ブロックは。
山寺 保育ブロックそのものは4年ほど前からですが、根がどちらの方向に向かうか―という研究は、ずっと重ねてきました。土の中で根の誘導をする実験をしてみると、植えたものだとなかなか誘導できませんが、種から育てていくと、根の誘導が非常にうまくいくことがわかりました。
武田 どうしてでしょうか―。
山寺 植物が伸びる―ということは、基本的には空気があるということ。そして、水があるということ。この2つがあれば伸びていきますが、もう一つの条件に重力というのがあるんですね。水と空気があっても、上には伸びません。重力の方向に伸びる、ということがとても重要です。私たち人間が、こうして座っているのも重力があるから、重力を感じる細胞があるからですね。
宮崎 少ない水分でも、植物が育つ期間にあればいいわけです。それに応じた根の広がりになっていきます。植物は秋になると眠りに入ります。その時期からは雨は必要なくなります。私たちが、それを少し助けてやればいい―ということになります。

ハードな対策とソフトな対策を
武田 今年7月の豪雨災害で、特に感じたことは。
山寺 天然林には直根があります。植林した林には直根が無い。それから、天然林は隣の木と根が交わり合うネット構造が非常に多いですが、植林した林には少ないです。ですから、この直根とネット構造がある林、森を作っていくことが大切だと思います。
武田 日本では直根が育つような植林は。
山寺 これまでは全くありません。でも、私たちはそれに気づいて、直根をいかに発達させるかという技術を開発して試験しています。まだあまり知られていませんが、やろうと思えばすぐにでも出来る方法です。まず、直根が必要である―という重要性を理解することからですね。その方法である保育ブロックをこれから普及していけたらと思います。
武田 今回の辰野町での災害現場のような災害が起こりやすい土壌というのは、日本各地にあると思っていいですか。
宮崎 そうです。かなり多くの人が、そういう場所に住んでいますし、公共施設も同じです。
武田 これを未然に防ぐことは困難―。
宮崎 まず、こういうことが起こり得るんだという認識をすること。それから、災害を防ぐより確実な方法、最悪な場合に避難する方法を考えていくことだと思います。よく言われる言葉ですが、ハードな対策とソフトな対策とのせめぎあいの中で、今取れる方法を提案していくことが大事だと思いますね。
武田 例えば、家を建て替える時に、危険な場所からなるべく離れるという思想も大事になってきますね。
宮崎 そう思います。2年前に砂防に関する法律が変わって、危険な場所を周知することや、そこに新しい建物を建てることを認めない、現在あるものを移転する場合には補助金を出すことができる―などが決められました。でも、ほとんどの人が知りませんし、その適用を受けていませんから、ハードとソフトの対策が合わせて取られていくことがさらに重要になりますね。
武田 例えば、直根が伸びやすい保育ブロックを作った場合、成長の率は。
山寺 木が大きくなる率というより、根が伸びるスピードが速くなりますし、深いところまで伸びるということです。木の根というのは、辰野町赤羽の災害現場のような土壌でしたら、1年で1bぐらい伸びます。ですから、それを途中でカットしたような根は、何十年経っても、80aぐらいしか伸びていません。いかに速く地中深くまで伸ばすか、そこがポイントですね。保育ブロックだとそれが出来る―ということです。
宮崎 ソフトな対策の中へそういう考えを入れて取り組んでいくということですね。そして、現在ある森林の間伐を強めに進めて、その空いた場所に直根が伸びる方法で追加していくと、全体として木材の生産をしながら、かつ安全な森林という意味合いを持たせることができるのではないか、と思います。
山寺 直根を伸ばすと、寿命が長くなり、成長量が良くなって大きくなります。勢いがいいですから、炭酸ガスの吸収量が多くなります。環境改善力が高まる、ということですね。そして、直根が伸びていますから、山地の保全力も高まるということです。そうした総合したメリットがあります。
武田 これから、そうした総合的に環境改善できる方法を、もっと提案していきたいですね。

(保育ブロック工法)=粘土質の土壌を使用。特に川に堆積した粘土質が良く、そこにバーク堆肥、肥料を混ぜる。水を混ぜて、かくはんし、特性のプレス器を用いて保育ブロックを作っていく=写真〓。保育ブロックには貫通穴があり、四方に刻んである切れ込みにも根が誘導されていく。このブロックに土を詰めて種をまき、20aほどに伸びた苗を植えていく。その場合、穴の下まで出ている根(直根)をしばらく休ませ、周囲から伸びてきている側根を伸ばしてやる。すると、直根が発達し、まっすぐ下に伸びていく。直根の伸びを促進することができるこうした方法で、天然に近い根を作っていくことが大事になる。
ポット苗の場合、根がポットの中で丸まってしまう欠点がある。この状態だと、根が自然の中でなかなか育たず、曲がったまま伸びてしまうため、根が弱く、寿命が短く、防災的にも弱い群落になってしまう。
保育ブロックは水分が蓄えられるため、乾燥に耐える長所があり、日本では一年中、施工可能。乾燥地域でも、直根が深く早く伸びるため、深い部分まで乾燥しないかぎり活着率を上げることができる長所を持つ。


左は直根が十分に伸びた苗。右は根が丸まってしまったポット苗

直根もネット構造も持たず、豪雨で倒れた植林カラマツ



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