2006年10月14日放送 

山寺喜成さん 宮崎敏孝さん

災害に強い山づくり

伊那谷豪雨災害の教訓をいかす@

災害は忘れたころにやってくる―とよく言われる。しかし、この夏、伊那谷を襲った豪雨による災害はまだ記憶に新しく、検証が進むにつれて、この災害が教えてくれるものが見えてきている。災害を忘れず、教訓を生かすことが今後さらに求められる。
いなまいニューススタジオは、2週にわたり、辰野町と塩尻市の災害現場を訪れ、災害に強い山を作るにはどうしたらいいか、信州大学農学部特任教授の山寺喜成さんと同大学農学部砂防緑化工学研究室主任助教授の宮崎敏孝さんに聞く。
山寺さんと宮崎さんが指摘する今回の災害の特徴は、直根がない弱い山であったこと、そして土壌の特性の2点。伊那谷の災害現場のほとんどが、この特徴に当てはまるという。山寺さんは、これまでに中国、モンゴル、アフリカなどで新しい植林の方法を試み、緑化に成功してきた。その経験と技術、検証の積み重ねは、これからの伊那谷の強い山づくりに生かされていくだろう。次回は、その具体的な方法の紹介とともに、自然であること、強い山づくりについてさらに聞く。(崩れなかったアカマツの直根(左から武田徹キャスター、宮崎さん、山寺さん)。山寺さんが示す上方まで土壌があった)

弱いところに出る被害
武田 今回の災害でわかったことは。
山寺 病気と同じで災害は弱いところに被害が出るんですね。原因は2つあります。一つは地質。もう一つは森林。その2つが弱かったことが重なって、今回の災害は起きています。
宮崎 誘引となった雨の量が、250年から300年に一度かどうかという大雨だったということがありました。それが一番作用したと思いますが、すべての山、谷が移動したのではなくて、何か弱点があって、境界ぎりぎりのところで、崩れたところと崩れなかったところが際立ったと思いますね。
山寺 今回この赤羽の災害で流れた土砂の高さは3b以上ありました。ここは5軒が土砂に流されましたが、東向きの日当たりのいい場所ですから、まさかこうした災害に遭うとは思っていなかった場所だと思います。
武田 この傾斜は、災害が起きやすい傾斜ですか。
宮崎 傾斜としては10度程度ですから、緩い傾斜です。この勾配ですと、通常は土砂の流出を起こさない傾斜で、逆に動いた土砂が止まるぐらいの場所です。今回は、泥と水が移動したので、止まる要素がなくて下まで流れてしまいました。
武田 今は流れてしまってありませんが、災害前は木が生えていたはず。
宮崎 植林した47生のカラマツがあった場所です。柔らかい土の上にカラマツの重しをしたような条件だったと考えることもできます。
武田 こうした場所が危険だという予知は難しいでしょうか。
山寺 今までは、あまり着目されてきませんでしたが、今回の災害で、今後は着目されるべきところだと思います。
武田 この赤羽の災害現場の土壌の特徴は…。
宮崎 古い時代に火山で噴出したギョウカイカクレキガン(凝灰角礫岩)と呼ばれるものがここにあります。それが最初に風化した部分が、粘土になってしまい、水を通しにくくなっている。その上に信州ローム層と呼ばれる土が乗っていました。信州ローム層は、水をたくさん蓄える性質があります。それが、植物の成長には必要ですが、限界を超えて吸湿すると、土が泥になって液体のようになる性質があります。今回は、そういう状況が起きたのではないかと思います。それが、今回の災害現場のすべての場所に共通した特徴です。
山寺 今回流れた場所の土壌の厚さは2〜3bありますが、その中に根が入るか入らないか―ということが非常に重要なことです。植えたものというのは、その厚さの中には根が入らない。天然に播種されたものは、根が入ります。それは、重力の方向に伸びる直根が失われないからですね。植えたものは、直根を切ってしまいますから、直根の性質が失われて、土の中に入っていきません。この赤羽の災害現場がなぜ崩れたかを追求すると、弱い地質と弱い森林。この2つを合わせて考えていかなければなりません。この現場の周囲には強い森林があります。そこは崩れていません。強い森林とは、根に鍵があるわけです。根が肝心なんですね。

弱い森林とは
武田 このアカマツには立派な直根が伸びていますね。
山寺 そうです。地球の重力の方向にしっかり伸びていっています。この根が失われると山は崩れます。(写真〓山寺さんの両手の上付近まで土があった)このアカマツは天然のものです。このように天然だと直根が発達します。このアカマツから下には、カラマツが植えてありました。2b以上の土壌がありますが、植えられていたカラマツの根は80aのところまでしか伸びていませんでした。ですから、土の上を滑っていってしまったということです。
武田 植えた木は、どうして直根が伸びないのでしょうか。
山寺 直根の先に重力を感じる細胞があります。その細胞を切ってしまうと、重力を感じなくなります。そして、それを補うために小さな根がたくさん出ます。すると、活着率は良くなりますが、根は横に伸びていきます。すると、よけいに土の上を滑る力を抑えることができなくなってしまいます。
武田 そうしたことは、昔からわかっていたことですか。
山寺 最近のことですね。緑であれば、それが自然なことだと思われてきましたから―。ところが、根を調べてみると、不自然だったということです。不自然なものを作ると、自然の中では長生きできません。できるだけ自然に近い状態を作っていかなければなりません。戦後、日本中に展開された造林に非常に反省が求められる点だと思います。直根が発達している木は土壌の保全力が高いですから、山崩れになりにくいです。
武田 重力を感じる細胞を切らず、直根を伸ばすことを考えた植林というのは、日本ではまだ、あまりおこなわれていない―。
山寺 そこまで考えている人はまだ少ないですね。これからは、強い森林を作っていかなければなりません。例えば、この現場にあるアカマツは、幹の7〜8割もの太さがあります。これが本来の自然な姿です。
宮崎 私たちが、こうした現象の根幹を理解すれば、次にどうしたらいいかということが見えてくるはずですね。
山寺 今回の災害で直根がしっかりした強い山づくりについて実証されたと思います。この強い林を作る方法を、これから提案していきたいと考えています。被害を受ける側を強くすること、体を強くして健康になることが大事ですね。

塩尻市北小野の災害現場。赤羽地区よりもさらに緩い傾斜地でも土砂と木が流出した。写真は流出したカラマツの根。根元の直径は約50aもある大木だが、自然であればあるはずの直根がなく、細い根が繁茂している

残ったアカマツの直根。赤羽の災害現場では、崩れた弱い山と崩れなかった強い山の境界に、こうした直根を見ることができる



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