2006年10月7日放送 

北原郁夫さん 米山智明さん 宮坂竜尚さん 吉澤政己さん

風景を継承するかやぶきの技

ふるさとの原風景を歩くA

日本の原風景を象徴する存在の一つ、茅葺き屋根。今週のいなまいニューススタジオは、先週に引き続き、茅野市宝勝寺の茅葺き屋根葺き替え工事の現場を訪れ、NPO法人信州伝統的建造物保存技術研究会の吉澤政己さん(工学博士)とともに、茅葺き屋根の風景とその風景を伝承する職人たちの話を聞く。
現在、宝勝寺の庫裏の茅葺き屋根の葺き替えをしているのは、上伊那の茅葺き職人たち。かつては地域の結束力の中でしていた葺き替え作業は、茅葺き屋根の減少とともに職人たちの仕事となり、さらに職人の減少もあって、その伝統技術は細々と伝承されているのが現状だ。宝勝寺の葺き替え工事は10月初旬で終わり、次に職人たちを待っているのは岡谷市の現場。貴重な存在となっている茅葺き職人たちは、長野県内を飛び回り、職人を待つ茅葺き屋根を守っている。
宝勝寺の茅葺き葺き替え工事の棟梁は、伊那市の茅葺き職人・北原郁夫さん(78)。仲間の中心は70歳以上の職人で、高齢化が進んでいるが、2年前、米山智明さん(29)が仲間に加わり、現在は北原さんの指導を受けながら茅葺き職人としての技を磨いている。縄文の時代から受け継がれてきた茅葺き屋根の風景。それを伝えてきた職人の技は、少しずつ未来へ受け継がれようとしている。
また、職人から職人へ技が受け継がれる一方で、茅葺き屋根を維持する家主や地域も、その伝承を理解することが重要だ。今回の宝勝寺の葺き替え工事には、檀家や地域の連携もあった。茅葺き屋根の維持に尽力する宝勝寺の宮坂竜尚住職も「地域の子どもたちに、この風景を残したい」と話す。(写真=10月3日、棟が上がり、葺き替え作業も仕上げの工程にはいった)

ほっとする風景
武田 宝勝寺の庫裏は、ずっと茅葺きを維持していますね。
宮坂 昭和20(1945)年〜30年代、地域の人が総出で葺き替えをしてきました。平成5(1993)年〜7年にかけて葺き替えをしましたが、資金の関係ですべて葺き替えることができず、今回は残った棟の部分の葺き替えをしています。
武田 材料の茅を見ると、いろんな太さのものがありますが―。
吉澤 昔、茅がたくさん使われていたころには、きれいに整備された茅場がありました。そういう場所では、よく刈りますから、比較的細くていい質の茅になります。最近は茅葺きのために育てた茅ではありませんから―。今回使っている茅の中には、江戸時代の茅を再利用している部分もあります。
宮坂 昔は、各家で何束か茅を持ち寄って、棟梁の指導のもとで皆で屋根に登って葺き替えたそうです。
武田 こちらでは、本堂は銅板葺きになっています。茅葺きと比べて長持ちするという理由から―。
吉澤 そう言われてきましたが、今は酸性雨の問題もあって、確かなことはわからない状況になっています。
宮坂 毎年秋になると、地域の子どもたちがここに絵を描きにやってきます。地域の何かを写生してくるように―という宿題でやってくるんですが、茅葺き屋根でよかったと思うことの一つですね。私自身も、しばらく家を離れていた時期がありましたが、戻ってきて、やはり茅葺き屋根を見ると、ほっとしました。子どもたちにも、そんなことを感じてほしいですね。
吉澤 茅葺き屋根に触ることができれば、もっといいかもしれませんが、子どもたちの中に、自然の美しさに目覚めるような感性が育っていくとうれしいですね。

かやぶき職人はおもしろい
武田 茅葺き職人になって何年になりますか。
北原 昭和40(1965)年ぐらいまでやって、しばらく仕事がなくて休んで、平成になってからまた始めました。叔父が職人だったので教えてもらって―。始めたのは22歳。今78歳になりますが、まだ現役です。
武田 米山さんは。
米山 この仕事を始めてから約2年になります。北原さんと当時勤めていた会社の社長が知り合いで、たまたま薦められて。実際に皆さんの仕事を見ていて、楽しそう、かっこいいなと思って始めました。仕事は、見るのとやるのは違って難しいですが―。
武田 大先輩から見て、仕事ぶりはどうですか。
北原 やる気があるので、大丈夫です。この仕事は、勘が大事なので。
武田 これからは、米山さんも仲間を増やして一緒に仕事をしていけるといいですね。
北原 もっと若い人が来てくれるとうれしいね。
武田 茅を刈るハサミもとても重い道具。
北原 毎日、2時間に一度、ハサミを研いで作業します。それから、今は金物の針で茅を固定していきますが、昔は竹の針でしたね。もう一つ大事な道具は槌。茅葺き屋根の勾配を整えるのに使います。この道具はカラマツでなければだめです。大きなカラマツを四つ割りにして、木目がしっかり浮き出たものを使います。
武田 それから、茅葺きの作業で汚れた手は洗わないと聞きましたが―。
北原 そうです。洗ってしまうと手が荒れてしまうので、仕事が終わるまで洗いません。今は茅葺き職人は上伊那に4人しかいません。もっと若い人に入ってきてほしいですね。

70代 80代 まだまだ現役
武田 今回葺き替えている庫裏の屋根は、ずいぶん大きなものですね。
吉澤 棟の長さで18〜20bあります。
武田 ですから、葺き替え作業もチームを組んで力を合わせないと大変ですね。
吉澤 今回は職人3人と手伝いの人を含めて計5人のチームで作業をしています。80歳、78歳、73歳といった方々が中心ですが、まだまだ元気で現役です。
武田 これから後継者は増えていきそうですか。
吉澤 上伊那では米山さんががんばっていますが、ほかにはまだいませんし、県内でも小谷村に少し若い職人がいるぐらいです。でも今は、時期が重ならなければ、材料の茅もなんとか調達できますし、職人さんもいますから、茅葺きを維持したい人は、ぜひ相談してほしいと思いますね。
武田 そうですね。少しでもこうした昔ながらの風景を残していきたいと思いますね。今は地域づくり、まちづくりと言って、古いものにも関心が向き始めていますから、風景とともに職人の技も含めて、ぜひ残したいと思います。
吉澤 たくさんの茅葺き屋根がないと、茅葺きの技術も伝わっていきませんから、そうした機会が増えていくといいですね。

屋根の上で軽やかに働く北原郁夫さん

茅葺き職人2年目の米山智明さん


材料の茅を整える「茅すぐり」の作業。丁寧に手をかけた作業が重ねられていく



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