2006年8月26日放送 

みらい塾 市ノ羽晧さん 幸子さん 玉田隆さん

出会い広がる空間づくり

農家民宿みらい塾を訪ねてA

伊那市長谷の農家民宿みらい塾。築100年以上の民家と土蔵の心地よさを生かし、伊那谷の豊かさあふれるおもてなしの空間だ。長谷地区唯一の専業農家としてアルストロメリアの栽培に取り組み、後継者の育成にも力を注いでいる。農業を通して、また、農家民宿で出会い、さらにその出会いをつなげて、さまざまな新しい空間や取り組みの始まりの場ともなっている。そして、その出会いを、いつも伊那谷の自然が見守る。
今回のいなまいニューススタジオは、みらい塾を訪ねる2回目。みらい塾を経営する市ノ羽晧さん、幸子さん夫妻と、昨年11月から縁あってみらい塾で寝泊りしながら、さまざまな出会いの演出にかかわる玉田隆さん(信州国産材開発協同組合理事長)に聞く。(左から、玉田隆さん、市ノ羽晧さん、市ノ羽幸子さん、武田徹キャスターみらい塾の囲炉裏で。この部屋の床は信州産のカラマツ材を利用している)

新しい出会いの場として
武田 囲炉裏というのは、知らない人が来ても、とても親しみを感じさせる雰囲気がありますね。
市ノ羽(晧) そうですね。こちらへ来た人を、火がなごませてくれます。
武田 玉田さんも、みらい塾と出会って、昨年11月からこちらにいるそうですが、きっかけは…。
玉田 伊那市にある友人の会社が10億円の負債を抱えて昨年9月に倒産しました。会社は再建できませんが、その会社が中心になって作った木材関係の協同組合がありまして、関係する皆さんが「地場産業を守りたい」と。そこで、その協同組合を再建するために呼ばれて、大阪から参りました。このみらい塾とのご縁は、5年前。友人に案内されて泊まったのが最初です。出身は愛媛県の山の中ですから、こうした囲炉裏のある風景の中で育ちました。
武田 玉田さんと出会い、いろんな影響を受けたそうですね。
市ノ羽(幸) 囲炉裏の回りの床は、カラマツ材を使っています。床も、いつか直したいと思っていたところ、玉田さんからいろんなアイデアをいただいて…。そして、現在のようにカラマツ材を使って直していただきました。以前はフローリングでしたが、カラマツ材にしてから、訪れた人が皆、ずっと座りこんでしまうような雰囲気になりましたね。
市ノ羽(晧) この床に変えてから、本当にあたたかみを感じています。
武田 玉田さんは、もともと木材関係の職業を―。
玉田 生まれは山林も持っている農家で、小さいころは、家族そろって植林の手伝いをしたこともありました。生まれ育った愛媛の山は、長野県のようにカラマツ林ではなくて、スギ、ヒノキの山でしたが―。これまでの仕事は、大きな都市公園の開発などのコンサルティングをしてきましたが、いつも私のふるさとの囲炉裏のある風景は原点にありました。今回、ご縁があって長野県にお世話になることになって、幸い、このみらい塾のように大きな母屋と2棟の土蔵で生活させていただいて、ふるさとに帰ったような気持ちがしていますね。
武田 出会いがあって、ご自分のアイデアがこうして形になって、いかがですか。
玉田 信州のカラマツというのは曲がりがあったり、ヤニがあったり、建築材には向かないと言われていました。それを、大学の研究者や県の技術者などの応援をいただきながら、乾燥技術を確立しました。それにもかかわらず、その会社が倒産してしまいましたから、至る所に在庫として、素晴らしいカラマツ材などがありました。この囲炉裏の框に使っているケヤキ材も、在庫の山の中に眠っていたものです。みらい塾に提案して、使わせていただいて、在庫の山が少しずつ減って、こちらでは宝になって―ということです。おかげさまで、ずいぶん在庫が減りました…。
武田 本当に、こちらのカラマツの床はいい雰囲気ですね。
市ノ羽(幸) 冬でもこの床はあたたかいです。最初、大工さんにカラマツを使ってほしいと言いましたら「曲がるし、修正がきかないから出来ない」と言われてしまいました。私は「それでもいい。信州の技術は確かなはずだから」と―。実際今年2月から使っていますが、全くゆがみがなく、いいんです。それからは、その大工さんも他のところでカラマツを使うようになったと聞いています。入り口からのアプローチも、玉田さんにアイデアをいただきましたが、実は前から、こういう人に出会いたい―と思っていたんです。こういうアイデアをくれる人に出会いたい、と。そう思っていると本当に出会うことができるのが、このみらい塾なんです。いろんな人のおかげなんです。

山の資源を使って
武田 この家は、築100年以上ということですが、木の家というのは本当に長持ちしますね。
市ノ羽(晧) そうですね。この家は、屋根を直して雨漏りに気をつければ、まだあと100年は大丈夫、と言われています。
武田 木というのは本当に偉大なものだと思います。
玉田 特に日本の場合、北海道から九州まで、植えれば育つ、こんなに貴重な資源はありません。
武田 こちらでは、庭の植物も非常によく育っていますが、特別な肥料を使っているそうですね。
市ノ羽(晧) カラマツの木の皮を堆肥にした樹皮堆肥を使っています。花を栽培するにあたっては、施設園芸ですから、囲まれた中の土しか利用できません。この土が、例えば、いろんな条件で悪くなった場合、土を交換することは簡単にできませんから、土は大事に使わなければならない―これが一番のきっかけでした。化学肥料だけで栽培すると、どうしても一方的な形ができてしまって、土がだんだん悪くなりますから、自然の土を求めました。そのためには、自然のものを使うのが一番いい。自然のものを利用して栽培すれば、土を長く使うことができますから―。
武田 普通は、カラマツを使うと言うと、あまり賛成しないのでは―。
市ノ羽(晧) たいていの人は、やめたほうがいい、と。カラマツはヤニがありますし、分解しにくいですから、誰もが嫌うんですね。私が作り始めようとしたころは、山にたくさん捨ててありました。それをいただいたのが最初でした。
武田 非常に効果があるそうですね。
市ノ羽(晧) そうです。栄養もなければいけないので、カラマツの樹皮に酒かす、豆腐かすなどを入れています。
武田 今では、その樹皮堆肥「アキラ」は人気が―。
市ノ羽(晧) だんだんと、という感じですね。やはり、基本的にはまだまだ化学肥料を使っている場合が多いでしょうから…。ここでは、この樹皮堆肥しか使っていません。
玉田 協同組合でも使っていますが、枯れかかった花が次々に元気になっています。これまで花を見たことがなかった桜の木も、今年の春、満開の花を咲かせてくれました。
武田 発想の転換。これまでの常識を一度疑ってみることも大事ですね。この古い家もそうですし、カラマツも…。考え方で宝になります。
市ノ羽(幸) そうですね。この家も、壊すよりも直して使おうと、ここに嫁いでから約50回改築をしてきました。少しずつよくしていこうと―。
武田 これからは、どんなおもてなしが喜ばれる時代になるでしょうか。
玉田 ある作家の言葉に「場所には物語を生み出す力がある」というのがあります。私は、いろんな村おこしにかかわったこともありますが、例えば茅葺きの家は、その地域にとってみれば時代遅れの象徴かもしれません。でも、それに手を入れて、人が出会えるような場所にしていくことによって輝いていく。ですから、一般的に無駄と思われているものも、手を加えて、心をこめて磨いていけば、必ず大きな力になっていくと思いますね。
武田 これから、みらい塾をどんなふうに展開していきたいと思っていますか。
市ノ羽(晧) ゆっくり来ていただいて、できる範囲内のおもてなしができたらと思っています。
市ノ羽(幸) 新しいお客さまがどんどん増えればいい―とは思っていないんですね。リピーターの方が電話をくださった時に「空いてるよ」と言えるような、ゆとりを持ちながら、私自身も自然体でお迎えできたらと思っていますね。

みらい塾で出会った玉田さんは、昨年11月から土蔵の宿泊施設に滞在しながら、新しい出会いやアイデアを提案している

母屋の談話コーナーも玉田さんのアイデアと国産材をふんだんに利用。今では多くの人が集まる空間として親しまれる場所



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