2006年7月15日放送 

内田健一さん

森づくりの明暗A

スウェーデン・オーストリアと日本の森

梅雨の湿り気に包まれ、森はいよいよ輝く生命を感じさせる。その一方で、森に足を踏み入れれば、手入れが遅れた人工林が悲鳴を上げているのが現状。未来へつなぐべき豊かさ、自然の恵みを、もう一度見つめ直したい。
今週のいなまいニューススタジオは、一人のきこりとして森と向き合い、日本の森の未来を見つめ続ける内田健一さんをゲストに迎える2回目。林業先進地スウェーデン、オーストリアと日本の森の現状などを、内田さんが実際に現地で話を聞きながら記録した写真を紹介しながら話を聞く。

内田健一さん
きこり。信州大学農学部を卒業後、信州大学農学部大学院修士課程修了。伐採業者、森林組合作業員を経て伊那谷で林業の親方として独立。「精神的には楽しく、山作りをまかせてくれたということもあり、独自の視点で、毎日森と対話しながら、仕事をすることができました」と当時を語る。2001年、岐阜県立森林文化アカデミー講師、同助教授を経て、現在はフリーの立場で研究執筆活動などをする。著書に「森づくりの明暗」。箕輪町在住。

森の未来へ
武田 日本は文明社会を目指してきた一方で、吉野地方で現在も続けられているような文化的な要素が失われてしまいました。文明も大事ですが、21世紀は、日本林業の文化も大事にしたいですね。
内田 そうですね。林業を大事にすると同時に、自分たちが土台にすべきものは、よそから持ってきたものではなくて、もともと自分たちの地域にあるんだ、ということ。その上で必要があれば、新しい技術を開発する―というふうに考え直していきたいですね。新しいものだけがよくて、そうでないものは切り捨ててしまうことがないように―。
武田 それは、住宅についても言えることです。まだまだ50年、100年も住める家をどんどん壊す時代になってしまった。
内田 日本は、現在の家屋の平均寿命は30年満たないと言われていますから、欧州で100年以上使われるのが当たり前、というのは衝撃的です。
武田 それから林業を考えた時、最近ボランティアの数が非常に増えています。その点についてはどう考えますか。
内田 ボランティアそのものを否定するのではなくて、ボランティアで出来ることと出来ないことは、はっきり分けて考えた方がいいと思います。というのは、今日本では森林面積が2500万fありますが、少なくみてもそのうちの半分は、かなり問題がある状況にあると思っています。となると、その面積は1250万f。一方で、ボランティア一人あたりが継続的に山林を手入れすることができる面積は、10e程度ではないか、という意見がボランティアの側から出ています。ということは、もしも日本の森林問題をボランティアの力によって解決するためには、1億2500万人の森林ボランティアが必要という計算になってしまいます。
武田 日本の総人口が、すべて森林ボランティアにならないといけない―。
内田 それはとても無理な話ですから、何か別の方法を考えなくてはいけない、ということになります。今、日本の森林ボランティアの数は全国で20万人と言われています。その数で計算すると、2万fという数字が出てきます。とても大きな面積ですが、日本の人工林1千万fのわずか0・2%にしかならないんですね。ですから、森林ボランティアの活動によってだけでは森林問題は解決できないということです。そして、山のプロがプロなりにやっていけるだけの社会システムを整える必要があります。
武田 我々の子孫のことも考えながら、日本の林業について考えていきたいですね。

岐阜県のヒノキ、スギ林の例。間伐が手遅れになり、林木が細長くなりすぎている。部分的に自重を支えられないものもあり、こうなると雪が降った時、自重を支えきれずに倒れてしまい、壊滅的になってしまうこともある。特に日本の樹木は斜面に生えていることが多く、一つの木が倒れはじめると、ドミノ倒しのように共倒れになることもよくある。
「大雨で山が流されてしまうと、土ごと木も流されてしまいます。もちろん直接の原因は大雨ですが、もっと山をしっかり育てていれば、地面の中に水が染み込んで、土ごと流されずにすむ可能性もあるのではないかと思っています」(内田さん)。

「通常、ここまで思い切って間伐する例は少ないですが、カラマツのように太陽を好む樹木の場合は、ここまで切ってもいい―と判断しました。中に光が差し込みますから、カラマツ以外の、山林に自生していた樹木が自然に生えてきます。広葉樹の場合は、もともと生えていた場所ですから。大きな針葉樹を育てる一方で、中ぐらいの広葉樹を育てることができます」(内田さんが間伐した箕輪町のカラマツ林)

オーストリアでの搬出作業風景。新式の大型機械と伝統的な手法がうまくミックスされ、作業がおこなわれている。写真は、木材を運搬するトラックに積み込むところ。
「伝統的なものを大切に、誇りを持ちながら、しかも楽しそうであるところが印象的でした。地域の職人さんたちが生き生きと生きる社会がここにはあると感じました」(内田さん)

スウェーデンでは、大型重機を使って伐採するのが通常。スウェーデンは冬季、白夜になることや、湖や沼が多く、凍りつく冬季しか作業できない―などの理由から冬季に集中して作業するため、その時期は3交代24時間制。作業員たちは森林技術者であり、他の専門技術者が選木したものを機械的に伐採するのではなく、自分たちが仕事の段取りやどうやって木を育てていくか―などを考えながら伐採を進めている。彼らは独立した親方である場合が多く、機械を自分で所有し、出来高で仕事をしているという

オーストリアの森林は日本の里山の風景と非常に近い雰囲気がある。日本のような一斉林が少なく、多様な樹木が生えていながら、人の手が入っている山が多い。また、林業に従事する人は、現在も鹿の皮で作ったズボンをはくなど伝統的な山人のスタイル(写真)。
「伝統的なものにはそれなりの理由があって、例えば、日本の地下足袋(山仕事では伝統的に用いられている)は、親指とその他の指を別々に動かせるため、日本の滑りやすい山では使い勝手がいいんですね。ヨーロッパでは、伝統的なスタイルを非常に大切にする姿勢があちこちにあります」(内田さん)






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