2006年4月29日放送 

桜守 稲辺謙次郎さん

桜の声に耳をすませながら

高遠の春 桜守に聞く@

天下一の桜として知られる高遠城址公園のタカトウコヒガンザクラ。例年に比べて今年は見ごろの時期が長く、花を楽しませてくれている。合併して新伊那市の新しい財産となり、権兵衛トンネル開通も重なって、それを祝うかのような花の姿だ。
高遠城址公園の約1500本の桜の木は、現在3人の桜守によって通年管理され、この花の時期を迎えている。これまで1人で支えてきた桜守の稲辺謙次郎さん(62)、そして、昨年から桜守に加わった宇治田直弘さん(29)、西村一樹さん(24)の3人だ。とりわけ宇治田さん、西村さんにとっては、昨年春から1年間、自分たちで養生してきた桜たちの晴れの姿を見る最初のシーズンとなった。
いなまいニューススタジオでは、2週にわたり、桜守の3人に話を聞く。1回目の今週は、稲辺さんに桜守の仕事ぶりなどを聞く。

稲辺謙次郎さん
東京都出身。桜守としての活動のほか、この地域の里山再生に関心を持ち、森だくさんの会、高遠森林(もり)クラブなどの活動を積極的に進めている。自宅にも3本の桜の木を咲かせ、桜の花を愛でながら伊那谷の山や植物に心を寄せる。61歳。

里山に関心を持ちつづけて
武田 稲辺さんは東京のご出身だそうですが。
稲辺 そうです。50歳を迎えた時にそれからの人生を考えて―。以前に伊那谷に来たこともありまして。
武田 若いころから植物に興味を。
稲辺 ボーイスカウト活動などを通して、子どもたちに自然や植物のことを伝えるために勉強もしていました。桜に対しては特別かかわりがあったわけではありませんが…。桜守になって8年になりました。
武田 桜だけでなく、里山にも関心を持って活動しているそうですね。
稲辺 高遠に来る前に、神奈川県で森林インストラクターをしていまして、そこで、荒廃した里山を再生したり、関心を持ってもらう活動を続けてきました。都会では身近に自然が少ないせいか、里山に関心を持つ人が意外に多いんですね。その活動は今も続けています。神奈川の里山に比べると、こちらはとても奥が深くて、大きいですね。
武田 里山の再生のために一番大事だと思うことは―。
稲辺 まず、人が入ることだと思います。そこで楽しんでもらうこと。そこから第一歩が始まると思っています。神奈川では、里山はこんな活用ができる―というところから始めました。例えば、薪を作ったり、使ったり、遊びに使ったり…。
武田 伊那谷でも、もっと関心が高まるといいですね。
稲辺 そうですね。こちらでは、上伊那を中心にした「森だくさんの会」、高遠を中心にした「高遠森林(もり)クラブ」の2つの活動をしていますが、だんだん関心が高まってきていると感じています。
武田 今、お花見の最盛期を迎えて、一番注意することは―。
稲辺 お客様の安全ですね。それと、桜の木については、どうしても根が浅いので、今の時期に弱い木を保護することです。
武田 今年のように、気温が低くて桜の花が長持ちしていると、「長い間楽しめていいなあ」と思いますが、桜守としては心配なことも。
稲辺 そうです。弱い木もありますし、根が踏まれることもありますから…。もちろん花見を楽しんでいただきたいですし、桜の花も楽しんでいただきたい、痛し痒しという心境になりますね。

数年前に雪で折れた桜の古木。折れた後に手当てをして、現在、3本の若い木が伸び始めている。
桜守稲辺さんらは3本の成長を見守りながら、最後に1本を残し、古木の再生をはかっている


桜守の一年
武田 桜の若返りという作業は―。
稲辺 桜の木は、痛んでくると自分で根を出します。それをうまく育て、地下まで誘導して新しい木の柱にしていきます。
武田 根を大切にすることが大事ということですね。
稲辺 そうです。木の下のほうに根が幹のようにからまっている古木もありますね。以前の治療方法として、倒れないために、幹の中にモルタルを詰めているものもあります。
武田 木と相談しながらの手当てになりますね。
稲辺 そうですね。根のひこばえから育っている若い木もありますから、いざというときのために、保存木として取っておくものもあります。
武田 いい花が咲くために一番大事なことといえば―。
稲辺 やはり土壌の管理。土壌の形成によって大きく変わってきます。根を踏まないようにするのが一番大切です。木の位置によっては、花見に訪れた人たちがどうしても踏んでしまう場所もありますから、年ごとに、踏まれない時期、場所を選んで、柵を移動しながら管理を続けています。
武田 これから花が散った後は、どんな管理を。
稲辺 咲いているうちに花を観察した結果、弱い木などを選んで、足りない養分を与えます。そうした作業から、来年のための作業が始まります。それから、葉が出てきますから、その葉の状況を観察します。すると、さっそく葉に虫が卵を産みつけていますから、それを見つけます。なるべく薬剤散布をしないように、目で見て見つけて、なるべく一つひとつ手で除いてしまうようにします。どちらかというと若い木に虫がつきやすいもので―。いつも観察していて、小さいうちに除けばだいじょうぶですから。そして、7月、8月、9月と、木についた虫や中に入っていく虫を駆除する作業に入ります。
武田 ところどころ穴が空いている木もありますが―。
稲辺 それは、ほとんど枝が折れてそこが洞になったものです。そこから虫が入りやすくなりますから、養生が大事になります。虫が入ると、虫はちゃんと入った跡を残していってくれますから、わかるんですね。
武田 それは、素人でもわかりますか。
稲辺 そうですね…。関心を持って見ればわかると思います。虫が入った小さな穴を見つけると、その穴に細い針金などを入れて、虫を駆除していく、という作業ですね。それから、秋になると、台風などの自然災害に備えるために、重なっている枝などがぶつかって折れないようにします。秋には、桜の葉も紅葉します。一枚一枚表情が違ってきれいですね。最近は、桜の紅葉した葉がはらはら落ちるのを楽しみにくるお客さんや、落ち葉を踏みしめて歩くのを楽しみにしている方もいるようです。ここでは、落ち葉は掃かずにずっと置いておきますから―。
武田 ずっと春まで落ち葉はそのまま―。
稲辺 そうです。歩道は掃きますが、それ以外の場所は養分として使いますから、そのままにしておきます。そして冬。冬になる直前に剪定作業に入ります。例えば、枝の途中から出ている枝について、その枝の10年、20年後を考えての剪定になりますね。冬になると雪の重みで枝が折れることがありますから、支柱をつけたりもしますね。そして、その時期は、高遠城址公園以外の場所にある学校などの町中の桜も管理に出かけています。
武田 こうして桜を楽しめるのも、こうした一年間の管理、仕事があってこそ。そう思いながら見ていると、桜の花も違って見える気がしてきます。

幹の回りに、ツタのように巻きついている根。だんだん太くなって幹の一部になって木の成長を支えていく。あまり強く巻きつきすぎない―など、ていねいに管理されていく


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