2006年4月1日放送 

へぎ板職人 小林鶴三さん

木とともに 「へぎ板」の魅力

木の繊維を生かす 木の表情を生かす

3月31日、伊那市と高遠町、長谷村が合併し、新伊那市が誕生した。また、2月には伊那谷の新しい玄関口、権兵衛トンネルが開通し、木曽谷と伊那谷の新しい交流が始まっている。伊那谷は大きな節目を迎え、ふるさとを見つめ直して未来へ向かう春―ともいえるだろう。
いなまいニューススタジオはこの新たな節目を記念して、権兵衛トンネルが結ぶ木曽谷を訪れた。木曽谷と伊那谷。互いに豊富な森林資源に恵まれ、先人たちは、その恵みを生かした文化や生活の知恵を育んできた。しかし、時代の流れは、その伝統文化、生活の知恵を置き去りにしてきた面も少なくない。
今回訪れたのは、木曽郡上松町のへぎ板職人・小林鶴三(つるみ)さんの工房。へぎ板は、のこぎりなどの刃物を使わず、木の繊維にそって木を割って薄くしていく板で、木曽谷では古くから、木曽産のネズコなどを材料に作られてきた。しかし、機械の普及などによって、手仕事で昔ながらの技を伝承している職人は、木曽谷で2人。しかも、材料の仕入れから販売までを手がけているのは、小林さんただ一人という。
今週、次週の2週にわたり、木が持つ本来の素晴らしさを生かし、その魅力をさらに引き出す、へぎ板の世界に触れる。

天然の木を求めて
武田 自然の光沢がありますね。
小林 木の繊維を壊さずに、削らずに手で割ってありますから、自然の艶が出ます。これがへぎ板の特徴です。厚さ1_以下まで薄くしていきます。天然木で数百年のもの、目がつまったものでないと、へぎ板になりません。
武田 薄くすればするほど艶が出てくる―。
小林 薄くしていくと、木の中の年輪が浮いてくる。それが美しいんですね。へぎ板というのは、だいたい板目(年輪に沿うように切り出した板の表面に現れる木目)に割って、年輪の美しさを見ていただく―というもの。そこに自然な〈へぎ肌〉が現れます。私自身は、木というのは板目の方が表情がある、と感じますね。
武田 木曽谷にはかつては、へぎ板職人はたくさんいましたか。
小林 昭和のはじめころまでは10数人いました。へぎ板の仕事は、木曽の山から木をいかだで運び出していたころに盛んでした。いかだで大阪や名古屋に木を運び、そこにある木材問屋などが、へぎ板職人を抱えて、へぎ板に加工して、出していたんですね。ですから、当時は、そういうところに職人が集まっていました。私自身、父は中津川出身で、大阪で修行をして―。でも、運送方法が変わってきて、大阪で材料の木が手に入りにくくなってきて、材料の木を求めて木曽へやってきた―というわけです。私がこの仕事をはじめた38年前には、まだまだ素晴らしい木がたくさんありました―。

刃物を使わず、手で〈へぐ〉へぎ板〓写真〓は、年が経つほどに艶が出てくる。特に黒味がかった色合いで知られるネズコは、10年以上経つと黒光りするような独特の艶が現れる。一方、近年増えている突き板(機械で薄くした板)は繊維を切断してしまうため、こうした自然の艶は現れてこないという。
「突き板は、触ってみるとつるつるしたかんじ。へぎ板はざらざらしている。これが木の本来の持ち味」(小林さん)。
へぎ板は、茶室などに施される網代(あじろ)天井で知られる。へぎ板を矢羽根や市松模様などに編んでいく工法で、木曽のへぎ板も京都などでの需要が多かった。材料は、年数が経つにつれて黒く味わい深い艶が出るネズコが主流。ほかに、サワラ、スギなどが使われる。しかし、天然のネズコが減り、小林さん自身も材料の調達に苦労している現状の中では、後継者の育成は難しいという。
小林さんは昨年、自宅横に展示場を開設。網代天井や屏風、戸、壁などにへぎ板を施し、さまざまなへぎ板の味わいを感じることができる。また、「実際に〈へぎ〉の作業を見てもらえれば、へぎ板のことをもっと知ってもらえる。木が持つすばらしさを知ってもらえる」と、最近では権兵衛トンネルを越えて伊那谷にも足を運ぶ。
次週は、へぎ板の展示場で、さらにへぎ板の魅力、木の魅力について聞く。


@小林さんの工房脇には、材料となるネズコが山積みされている。目がつまった天然のネズコを丸太にし、ミカン割り(縦に割る)に。ミカン割りしたものから、へぎ板を32枚取れる幅にしていく
(写真はミカン割りしたネズコの丸太)


A両足で木を押さえながら、鉈を立てて小槌で叩き、32枚の木取りを

B左足の押さえ加減を調節しながら、薄く薄く、〈へぎ〉の工程にはいる。刃物は使わない


C〈へぐ〉と、木の木目が内側から現れる。同時に、ネズコの香りが工房じゅうに広がった。〈へぐ〉時、木の繊維がやさしくはがれていくような、サリサリ、という音も



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