2006年2月11日放送 

西箕輪ふるさと景観住民協定者会 小池知志さん 有賀健一さん 山口通之さん

ふるさとの景観をつないでゆくために

伊那谷の玄関口を景観モデルに

2月4日、権兵衛トンネルが開通、伊那谷の新しい玄関口が誕生した。その玄関口となるのは、伊那市西箕輪地区。中央アルプスから傾斜するなだらかな扇状地形と、そこに広がる田園風景、そして南アルプスの眺望―伊那谷を象徴する景観が広がる。
昨年、西箕輪地区では、「西箕輪ふるさと景観住民協定」が締結された。地区住民の手でこの素晴らしい景観を守り、次代につなげていこうという取り組みだ。地区内では、隣接地域への働きかけや、長野県景観条例改正に伴う「景観特区の指定」についても協議が進められている。伊那谷の新しい玄関口、西箕輪地区は、伊那谷の「景観モデル」として、新たな歩みを刻んでいる。
今回のいなまいニューススタジオは、西箕輪ふるさと景観住民協定者会の小池知志会長、有賀健一副会長、山口通之事務局長をゲストに迎え、ふるさとの景観について考える。

西箕輪ふるさと景観住民協定締結への取り組み
武田 いよいよ権兵衛トンネルが開通しましたね。木曾から伊那谷に来た人たちの多くが、この景色に感激したと思います。西箕輪ふるさと景観住民協定。これまでどんな経過が―。
小池 平成14(2002)年2月、取り組みが始まったころ、環境に影響を及ぼすような産業廃棄物の焼却炉を建設するという業者の計画が持ちあがりました。それをきっかけに、環境と開発を考える会という形で立ち上げてきたところです。
武田 小池さん自身、この西箕輪の風景は素晴らしい、という認識はどうでしたか。
小池 その時点では、当たり前のような風景として―。
武田 地区住民の反応はどうでしたか。
小池 わかっていただけるようになるまで約3年かかりましたね。特に、課題だったのは、役員が1年ごとに交代してしまうこと。それは残念だったことの一つですが、そんな中で検討を重ねて、いいものができてきたと思っています。
武田 どんな検討を―。
小池 まず西箕輪で景観協定を結ぶには、どんなことを入れていけばいいか、アンケートを地区内で取りました。そういう中から項目が決まり、その項目ごとに、どんな規制にしていこうかと検討を重ねていきましたね。
武田 西箕輪ふるさと景観住民協定の特徴は。
小池 不法投棄をしない。それから、西箕輪は農業が主体の地域ですから、田畑を荒らさない、というのも大事なことです。そして、豊かな自然を守ろうと、動植物を大切にしていこうと―。建物の高さについては13b以下にしています。
武田 建物の高さについては、規制が大変だったのでは。
小池 そうですね。地区内に計画されたマンションは5階建てで、13bを超えるものでした。業者の側では、5階建てにしなければ採算が合わない、と。ですが、事前協議の中で5階建てを4階建てにしてもらいました。苦労しましたね。
武田 そして、建物の色。
小池 けばけばしい色は使わないようにお願いしています。特に彩度を8以下に規制させていただきました。これからの建物については、このことが非常に大事と思っています。広告についても、高さ3・5b以下、4平方b以下などとしています。
武田 こうした具体的な規制をイラストにしたことで、わかりやすいです。
小池 地域の皆さん全員に認識していただくために、わかりやすくイラストにして全戸に配布しました。子どもが見てもわかるようにと。

農業が守るふるさとの景観
武田 西箕輪に広がる田園風景の特徴は。
有賀 地形的に畑作が多いのが特徴ですね。西箕輪は扇状地形で、水がしみていってしまうために、昔から水と灌漑用水には、先人の方々が非常に苦労した歴史があります。開通した権兵衛トンネルの奥に奈良井川の支流があり、その支流から権兵衛峠を越えて、その水を北沢という川に落とし、さらに下流で取り入れる―という方法で、明治のころの皆さんは苦労されました。今、一部その苦労のおかげで約20fが潤っています。現在、地区内には、150fの水田、600fの畑があります。
武田 今は、その田畑を守るために、農業を続けるために、いろんな問題を抱えているようですね。
有賀 そうですね。今、主に畑ですが、遊休地と言われるところが6〜7%になっています。これは伊那市の平均よりも多い数字です。昨年、地元の農協で実施した農業に関する調査によると、地区内で専業農家は20%、第二種兼業農家が60%以上です。そのアンケートの中で指摘された問題点は、高齢化が進んでいることと、後継者がいないということでした。
武田 これから、遊休農地を増やさないために、どんな対策を。
有賀 自分の農地をなかなか自分で守れない現状がありますから、集落全体で集落の農地のことを考えていく時代がすでにきていると思います。
武田 せっかく協定を結んだ田園地帯の素晴らしい景観を守っていくためにも、この農業の問題は重要になってきますね。
有賀 そうです。専業農家の皆さんも、実際には自分の農地だけで精いっぱいという状態ですから、地区全体で考えていくことが本当に大切です。

伊那谷景観のモデルとして
武田 この条例のタイトル「西箕輪ふるさと景観住民協定」。これは、どんなふうにつけられたものですか。
山口 住民アンケートの中で、地域の皆さんがこの西箕輪に、どういう思いを持っているのかを聞きました。やはり協定を作っていく段階で、みんなでいろんなものを寄せ合っていくというプロセスが非常に大事、ということで進めてきましたから―。そうして、だんだん中身ができてきた時、この協定の名称もみんなの意見で、と公募しました。40通余が集まった中で「ふるさと」という言葉が一番多かったんですね。実はこの西箕輪地区は、過去の合併の歴史の中でも、旧村のまま地区のまとまりがずっとあって、小中学校の統廃合もありませんでした。この地域の皆さんの地域に寄せる思いというのは、とても深いものがあります。例えば、小中学校の校歌は同じですから、集まると校歌がすぐに出てくる―。その校歌の中に「眺めは尽きぬ」という言葉があって、まさにこの景観のことを歌っています。ですから、公募の中でもう一つ候補になったのは、その「眺めは尽きぬ」でした。その時、地域の皆さんの思いは本当に深いものがあると感じましたね。
武田 現在は西箕輪地区だけですが、これからは隣接地域にも広げていきたいですね。
山口 箕輪町、南箕輪村と接しています。周辺は、いずれも都市化しているところでもなく、畑地が多い場所。まさに畑地を中心にした田園風景なんですね。そして、平地林がたくさん残っている。ぜひ、広げていきたいですね。少しずつ働きかけをしていまして、だんだんに理解していただいているところです。
武田 景観特区をめざして―。
山口 そうですね。一昨年、国で景観法が通って、長野県でも「景観特区」に指定する県内5区の中の一つとしてこの西箕輪地区をどうか、と声をかけていただいています。法律にもとずいた景観特区ということですから、これまでの経験を生かしながら、住民合意に向かっていきたいと思っています。さらに、伊那市・高遠町・長谷村とエリアがつながります。合併後の新伊那市のキャッチフレーズは「2つのアルプスに抱かれた自然共生都市」。自然共生ですから、景観を非常に重要視したものですね。私たちの取り組みは、3市町村が合併した時のモデルにもなるといいと思っています。
武田 まさに、伊那谷の景観モデルになっていくといいですね。
山口 これからは、子どもたちにも地域の良さ、景観の素晴らしさを知っていってもらうこと、これが大事と思っています。
武田 「景観」という字は、「景感」と書いて、景を感じる、とも言えると思いますね。見るだけでなく、匂いや聴覚、風の皮膚感覚などもすべて含まれると―。それをすべて大事にしていきたいですね。

西箕輪地区全戸に配布されたパンフレット


【西箕輪ふるさと景観住民協定】
平成14(2002)年から取り組み、昨年5月公布された。
地区内のほぼ全域を指定区域とし、長野県下で2番目の規模。建物の高さや彩度、広告看板の大きさや色、街路樹の大きさなど、詳細にルールを決めている。
全戸に配布されたパンフレットには「運営に当たっては、やがては区民の自主的な参加と運営が理想」という協定者会の小池会長の言葉があり、地域発の取り組みとして、注目される。

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