2005年7月30日放送 

ひと・むし・たんぼの会 久野公啓さん

ひと・むし・たんぼの会 生き物の輝きを伝えつづけて

たんぼも虫も生きている

田んぼは稲を育てる場所だけじゃない―そこには、カエルやトンボなどさまざまな生き物が暮らし、共に生きている。そんな当たり前にも思える自然の姿を、農家として見つめ、「農」や私たちの「食」を考えようと結成された「ひと・むし・たんぼの会」。7月には伊那市立図書館で、「ひと・むし・たんぼ展」が開かれ、たくさんの田んぼの生き物や農とのつながりが紹介された。
今回のいなまいニューススタジオは、同会会員で、たんぼの生き物をテーマに写真を撮り続けている造形作家・久野公啓さんをゲストに迎え、久野さんが出会ったたんぼに生きる虫たち、また、ありのままの自然の美などについて聞いた。

【久野公啓(くの・きみひろ)さん】
 
信州大学農学部卒業後、写真家、造形作家として、自然をモチーフにした作品に取り組み続けている。全国をフィールドにした「タカの渡り」調査にも参加。「タカの渡り観察ガイドブック」(信州ワシタカ類渡り調査グループ著・文一総合出版)では、写真、執筆も。現在は、たんぼの生き物に興味を持ち、伊那谷をはじめ全国を駆け巡って、生き物の輝きを追い続けている。伊那市西箕輪在住。40歳。

写真を通して
武田 大学生のころから写真を―。
久野 学生のころから写真は撮っていましたが、田んぼの生き物をテーマに取り上げているのはここ3、4年のことです。田んぼの生き物の魅力を伝えるには、写真はとても訴える力が大きなメディアだと思っていますので―。たくさん写真は撮りためていますが、今回の展示では、田んぼには、いろんな大きな生き物、小さな生き物―さまざま暮らしているということを、大きな写真、小さな写真、色がきれいな写真などを織り交ぜて並べてみたら楽しいんじゃないか、と…。
武田 子どもたちの反応はいかがですか。
久野 楽しそうですね。お母さんが子どもと一緒に見ている姿を拝見していると、子どもたちが、いろんな写真を指さして楽しそうにしていて…。
武田 こうして虫の顔がアップになった写真を見たりすると、肉眼で見るのとは全く違って―。
久野 ただ立ったまま虫を眺めるのと、田んぼの畔に膝をついて眺めるのとは、全然別の世界が見えてきます。そういうこともあって、今回は小さな虫の写真もたくさん並べています。
武田 例えば、水中に暮らすダニの写真がありますが、実際にはどのぐらいの大きさの虫ですか。
久野 1_ぐらいだと思います。肉眼で見ると、植物の種のようなものが水の中でちょろちょろ動いているようにしか見えないかもしれませんが、写真というメディアを通してみると、怖いような不思議な顔をしているのがわかりますね。

タカを追って カエルを追って はっぱを追って
武田 タカの渡りの調査に参加しているそうですが。
久野 渡りの時期に通過していくタカを調べるという活動です。20年ほどになります。鳥は好きでしたが、ただ見ているだけではおもしろくない―。もう少し踏み込んだ鳥との付き合い方はないかと思っていたところ、タカの渡りの名所で知られる愛知県伊良子岬に仲間たちと一緒に行きまして。その時、先輩がとても生き生きとした顔で調査している姿を見て、やってみようと。それが一つのきっかけでした。
武田 タカの数は、減っているとよく聞きますが―。
久野 種類によって事情はさまざまで、増加傾向にあるタカもいますね。例えば、渡っていくタカの中では「ノスリ」。これは、なぜか増えつつある、という結果が出ています。「ハヤブサ」も、どちらかといえば増えているようですね。最近になって長野県内でもあちこちで繁殖例が確認されています。「チョウゲンボウ」は、最近は、ビルや橋げたで繁殖する例が増えていますが、崖のようなもともとの繁殖地は減っていますから、増えた減ったと、いちがいには言えませんね。
武田 減っているタカというと。
久野 私自身がメーンに調査しているタカの中で「ハチクマ」というタカがいます。これは、ハチを好んで食べる風変わりなタカですが、だんだん減ってきている感じですね。残念です。
武田 最近、カエルの声の録音を始めたそうですが。
久野 カエルの撮影はほとんど夜なんですね。夜、人気のない田んぼへ行って写真を撮っていると、四方八方からカエルの声に包まれて、ものすごく心地よい気分になって―。2年ほど前、写真とともに声の録音も始めました。今は、ちょっとした機材でいい音、声を残すことができますし―。
武田 カエルの声は、初夏から夏にかけての風物詩ですね。私自身も小さいころ住んでいたところは水田に囲まれていましたから、本当によく声を聞きましたが、最近は、あまり聞かれなくなってしまいましたね。
久野 そうですね。特に今は、カエルが鳴く時間帯は、テレビで野球を観ていたり…。家の構造も密閉型になって、外の音があまり聞こえなくなってしまいましたね。
武田 それと同時に、都市化や休耕などで、水田も減ってしまった…。久野さんが生まれた愛知県では、カエルの声はどうでしょうか。
久野 まだ聞こえてはいますが、カエルの種類は確実に変わってきています。子どものころ、田んぼのカエルといえばトノサマガエルが中心でしたが、ほ場整備や、水路が三面張りになったりして、そうした影響を受けて、今では三面張りの水路でも強い(這い上がることができる)アマガエルばかりになってしまっています。長野県や伊那谷でも、かつての音風景としてのカエルの声は変化してしまっていると思いますね。
武田 信州大学農学部に進学した時は、今のように写真を撮ったり、カエルの声を録音するようになると思っていましたか。
久野 職業としては考えたことはありませんでしたね。まずは自分がやりたいことをつきつめて、それを積み重ねていけば、そのうち…と。今思えば、これまでこうして好きなことを続けてこれたので、よかったと―。
武田 最初、葉っぱのはがきに取り組んだころは、やはり、そうした自然の造形美に魅力を感じて―。
久野 例えば、葉っぱを探して野山を駆けずり回っていると、葉っぱだけじゃなく、いろんなおもしろいことが目に飛び込んでくるんですね。その中から、自分の力で表現できるテーマを一つひとつ見つけて、だんだんこなしていった結果が、タカや田んぼの生き物につながっていった、ということですね。

製作:伊那毎日新聞社 All Rights Reserved (C) 2005  制作協力:Fieldwork