2005年4月9日放送 

森本尚武さん 小松実治さん

虫はともだち 自然の仲間

虫の暮らしは面白さいっぱい

ようやく伊那谷も春の気配が濃くなり、草花に昆虫がうごめく姿も見られるようになった。一口に昆虫と言っても、その種類や生態は千差万別。人間の側の呼び方で「益虫」として重宝されたり、「害虫」として嫌われる昆虫もいるが、実際には、まだよくわかっていない生態や働きは多いという。
伊那市にある「みはらしいちご園」でも、ミツバチが活躍している。受粉が主な役割だが、昆虫が元気に働ける環境ということは、農薬などの影響が少ない快適な環境とも言える。こうした、農業への応用も、近年注目されつつある傾向だ。
今回のいなまいニューススタジオは、春、動き出した昆虫をテーマに、昆虫の神秘の生態や働きなどについて、前信州大学学長で、昆虫学が専門の森本尚武さん、40年余にわたりミツバチの飼育をしている小松実治さんと語り合う。

森本尚武さん
平成15(2003)年まで信州大学学長。昨年夏から、子どもたちに身近な自然や昆虫を教える「子ども自然教室」を開講。教室では、▽虫の名前を図鑑で調べる▽昆虫採集の方法▽昆虫の絵を書く▽昆虫の飼育―など、さまざまな角度から、子どもたちに昆虫に興味を持ち、自然の素晴らしさを感じることができるよう工夫されている。「部屋の中にいたら一年中、春と秋。でも、外には四季がある。まず子どもたちを外に出すことから始めたい。伊那の子どもたちを、虫好き、自然好きにしてやりたい」(森本さん)。信州大学名誉教授。

小松実治さん
小松養蜂園経営。県内外のイチゴ園で、小松さんのミツバチが活躍している。「自分の体よりも多い蜜を抱えて帰ってくるミツバチ。本当に不思議」と、40年余ミツバチとともに生きながらも、まだその神秘さに魅せられ続けている。

昆虫と農業
武田 小松さんは蜜ろうで置物なども作っているそうですが、蜜ろうとは、どんなものですか。
小松 ミツバチの巣は、ほとんど蜜ろうでできています。他のハチは、木の皮を持ってきて唾液で練って巣を作ったりしますが、蜜ろうを自分で出して、巣を作るわけですね。
武田 春先は、渥美半島でミツバチを飼っているそうですが。
小松 渥美半島では1月から4月初旬まで、桜や、キャベツの花からミツバチが集めてくれる蜜をいただいて―。長野県は山国で、ハチを飼うには最高の条件があります。今はレンゲの花がほとんどなくなってしまいましたから、アカシア、トチ、クリ、ソバの花などからいただいていますね。
武田 ハチ蜜は、健康にもいいし、人間の役に立っていますが、同じ昆虫でも、害虫と益虫と言われるものがあります。人間が勝手につけた言い方ではありますが、農業に昆虫を利用しようという動きもあるそうですね。
森本 害虫は作物を食べますね。益虫にはハチのように受粉してくれるもの、害虫をやっつける天敵もいる。それはすべて農業に役立つわけです。害虫をやっつける天敵は、農薬を少なくするところで使えますし―。私自身は、そうした研究を長年してきたわけですが、最近になってようやく、そこに関心が寄せられるようになりました。昔は「そんなことをしても…」という人が多かったですが、今は長野県も、環境保全型農業と言って、少しでも農薬を減らしていこうと、いろんな防除法を取り入れ始めましたね。農薬というのは、数を減らすのではなく、全滅を目標としているわけです。ところが、いくらやっても全滅にはならない。それならば、数を少なくするにはどうすればいいか…。そこに、いろんな方法があるわけです。
武田 例えば、昆虫は、どんなところに使われていますか。
森本 イチゴの害虫のためにハチが使われたり、果樹の害虫のために使われたり、たくさんあります。例えば、ハチにもいろいろあって、害虫の体の中に入っていって害虫の体を食べて退治するもの、害虫の外側に寄生するもの、アシナガバチのように、巣に虫を運んで食べるものもありますね。
武田 それを人間が利用させていただいて農薬を減らそうと―。
森本 そうです。それから、このあたりではハチの子を食べますね。そういう意味では益虫と言えます。農業だけでなく、人間生活に深くかかわりがあるのが昆虫なんですね。
武田 森本さんが昆虫の研究を始めたきっかけは。
森本 小さいころから虫は好きでしたが、昆虫学者になろうという気持ちはありませんでした。ところが、出会いがありまして―。ある集中講義で昆虫の話を聞いて、それが面白かったんですね。それで「昆虫を研究してみよう。不思議なことがたくさんある」と。

ミツバチがイチゴの形を作る
武田 イチゴ園では小松さんのミツバチが活躍されているそうですね。
小松 イチゴのハウスの中では、外国から入ってきている「マルハナバチ」というハチも一部で使われていますが、ほとんどはミツバチです。ミツバチは、イチゴの花が咲いて、イチゴの実が少し出てくると、ミツバチは花にとまって、まんべんなく実の上を回って歩きます。そこで、ミツバチがうまく回ってくれると、格好がいい円錐形のイチゴができます。そこで、温度が低かったり、ミツバチの動きが悪かったりすると、奇形のイチゴができたりします。イチゴ農家にとっては、やはり円錐形の格好のいいイチゴが欲しいですからね。他の昆虫類では、こうしたミツバチのような働きはできません―。
森本 ミツバチは花に蜜を吸いに行って、効率よく蜜を採ろうとして、そういう動きをするんでしょうね。
武田 それが結局、イチゴの形を格好よくすることになっている、と。それと、ミツバチがハウスの中で働けるということは、農薬も使われない、ということですね。

昆虫の神秘は無限に
武田 昆虫の神秘、働きというのは、たくさんありますね。
森本 そうですね。例えばアリ。ハチと同じように社会生活している昆虫ですが、非常に賢いです。ある時、木の葉を食べる害虫を、どんな天敵が、どれぐらい食べるか、という研究をしました。朝、その木に行くと、夜の間に害虫の数が減っている。その時は、何が食べたかわかりませんでしたが、あとで「アリじゃないか」ということになって―。そこで、確かめようと、木の幹にトリモチをつけて、アリが上がれないようにしてみました。そうすればアリが木の幹に上がれないのでは、と。ところが、トリモチの上にたくさん落ち葉をくっつけて、橋を作って渡って行って、虫を持っていったんですね。アリは、どうして木の上にいる虫を知ったかというと、木の下に落ちていたフンでした。びっくりしましたね。
武田 面白いですね―。
森本 それから、ゴキブリ。本来、野外にいる昆虫ですが、住みやすいので、今では家の中に入ってきています。このゴキブリというのは、頭から出ている触角を、お互いにすり合わせ、触れながら集団生活をしています。寂しがりやなんです。1匹だけにすると、安定しなくて、あちこち這い回ります。そのためにエサもあまり食べませんから、発育が遅れたりします。飼ってみると、ゴキブリも可愛いものですが、そうした生活の実態を知らないと、面白みもわかりませんね。

昆虫や自然が好きな子どもになってほしい
武田 森本さんは特にチョウに興味を持ったそうですが、きっかけは。
森本 旧制中学時代、生物の成績が良くなかったんです。それで、生物の先生にいい点をもらおうと、その先生に「昆虫が好きです」と言ったんですね。すると「よし、採集に行こう」ということになって―。ところが行ってみると、虫の名前を知りません…。先生は、昆虫が好きだというのも嘘だろうと思ったでしょうが、「こいつを昆虫好きにしてやろう」と思ってくださったんでしょう。昆虫について教えてくれたんです。いろんな虫を教えてもらいました。教えてもらうだけではだめで「飼育してみろ」と、飼育も始めまして。虫を飼い始めると、エサになる植物も覚えました。そうして、だんだん好きになって、本当に好きになってしまいました。
武田 最初に飼ったのは…。
森本 モンシロチョウでした。これは、小学生、保育園児でも飼育できます。一番身近にあって、春、早く出てくるモンシロチョウ。親しみがありますからね。キャベツの葉裏などにある卵を採ってきて飼育するわけですが、さぼっていると大きくなりませんし、成長しても小さなチョウになります。そういうことがわかってきますから、一生懸命飼います。アゲハチョウもそうです。エサは大変ですが、きれいなチョウになると思うと、一生懸命になりますね。
武田 小松さんは、どうしてミツバチを飼うように―。
小松 昔、「シベリア物語」という映画がありました。ハチは出てきませんでしたが、きれいな青空が出てきた。それを見ているうちに、山へ行こうか、と思ったりしていた時、ちょうど蜜の値段が上がって、始めたというわけで―。
武田 森本さんは、去年、「子ども自然教室」を始めたそうですが。
森本 小学校1年、2年、3年を対象にして、自然の不思議さ、面白さを教えるために昆虫を自分で採る。そして、どんな花に虫が来ているか、何を食べているかを、自分の目で見て、触ってみて、感じることが大事。そのもとを作っているわけですね。ですから、昆虫が好きでもいいし、植物が好きでもいい。とにかく自然が好きになってほしいんです。そういうことを、保護者も一緒になってやってほしい。そうすると、子どもたちは外へ出るようになりますね。実際やっていると、教室の時間が終わっても、子どもたちは帰りません―。
武田 熱中してしまうんですね。
森本 これを大事にしたいと思いますね。今は、茅野や松本、諏訪などからもやってきています。今年は5月に始めますが、モンシロチョウの飼育もしようと考えています。モンシロチョウも、こんなに面白いか、とまず知ってほしい。そして、ほかの虫や植物もやっていきます。
武田 去年は何人ぐらい参加を。
森本 多い時は100人ぐらい集まりましたね。去年は7回開催しましたが、今年はもっと回数を増やす予定です。毎年、続けていきたいですね。

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