2004年9月4日放送 

池上房男さん 小松実治さん

伊那谷ハチ談義@ ミツバチに学んだ経営哲学

ミツバチは語る 「みる」こと「考える」こと

ハチと言えば、刺される、怖い、というイメージもつきまとうが、ここ伊那谷では、ハチは身近な存在。家の庭先でミツバチを飼い、すがれ(地蜂・クロスズメバチ)を追い、その幼虫を食べる。伊那谷には、そんなハチ文化とも言えるものが息づいている。ハチ好きが集まれば、わが家のミツバチの味、飼い方の話に花が咲き、夜更けまで続くこともしばしばだ。
女王蜂を中心に、家族を形成し、社会性を持って生活を営むハチ。野菜や果物の受粉には欠かせない存在でもあるが、その生活の知恵に学ぶことも多い。花の蜜を集めて生活し、自然とともに生きるミツバチは、変わりつつある自然環境のバロメーターでもある。ハチの世界をのぞけば、私たちが暮らす今の環境も見えてくるかもしれない。
今回のいなまいニューススタジオは、伊那市で養蜂業を営む小松実治さん、57年間ミツバチを飼い続けている池上房男さんをゲストに迎え、ハチの世界の魅力に迫る。また、次回は、ハチの市長としても知られる伊那市の小坂樫男市長も加わり、伊那谷のハチ文化について語り合う。
写真:左から武田徹キャスター、池上房男さん、小松実治さん

小松実治(こまつ・じつじ)さん
養蜂家。1950年から養蜂を営む。ミツバチの小松さんとして、伊那谷では有名。
蜜の販売だけでなく、蜜ろうの置き物を作ったり、知的障害者授産施設に巣箱の製作を依頼するなど、多方面に活躍。母校である上伊那農業高校を拠点として、農業と自然に関わる人々の交流を図る「緑塾」の運営にも関わる。
ミツバチを介して幅広い人脈を持ち、「ハチがいろんな縁をくれた。本当に感謝」と、話す。72歳。伊那市在住。

池上房男(いけがみ・ふさお)さん
昭和22年からミツバチを飼い始め、以来今日までミツバチとともにある。経営、教育、その他さまざまなことをミツバチから学び、自身の教訓にし、感謝し続ける。
池上さんが人生の師として尊敬するのは、ミツバチと母親。「人にとられないものを身に付けなさい。それは、信用と知恵とちから」という母親の言葉を今でも大切にしている。また、その言葉はミツバチに通じるものでもある。
長年、会社の経営に携わり、現在も毎日会社に足を運ぶ池上さん。庭には3群のミツバチの巣箱があり、一年じゅう観察を続けている。「『みる』とひと言でいっても、いろんな『みる』がある。『みる』だけでなく考えることが大事」と、91歳になった今もミツバチから学ぶ姿勢を忘れない。大明化学工業株式会社取締役相談役。南箕輪村在住。

ミツバチに囲まれて
武田 小松さんはハチを媒介にして、多くの人と交流を広めてきたそうですね。
小松 例えば緑塾。これは、出身の上伊那農業高校で始まったものですが、私も講師として「女王蜂の世界」という話をしました。
武田 養蜂業を始めて何年になりますか。
小松 高校を卒業してからですから、40年以上になります。
武田 その頃と今では、蜜の採取などずいぶん変わりましたか。
小松 すっかり変わりました。昔は、伊那谷といえば、レンゲの花がたくさんありました。今はほとんどレンゲの花を見ることもなくなって、ニセアカシアが主流になっています。山に行けばトチの蜜などです。
武田 今、ミツバチは他にどんなところで利用を―。
小松 イチゴ、メロン、スイカなど、今はハウス栽培が盛んになりました。昔と違って、チョウが少なくなりました。ハウスの中では、今はほとんどがミツバチを使って受粉、交配していますね。
武田 池上さんが飼っているミツバチ、養蜂業を営む専門家から見ていかがですか。
小松 人間の世界で言えば、貯蓄豊かですね。生存競争が激しいですから、個々の巣箱は全てライバルになって―。
武田 成績が悪くなると、気性も変わってきますか。
小松 蜜があるハチ、無いハチは本当に極端に違います。蜜が無い時は、巣箱の蓋を開けると怒って飛び出してきます。
武田 今日の池上さんのハチは穏やかでした…。
小松 そうですね。これが池上さんの経営のいいところでしょう。
武田 小松さんは蜜蝋を使ってウサギなどの置き物を作っているそうですが―。
小松 ミツバチの巣は全て蜜蝋でできています。スズメバチなど他のハチは巣を木の皮などから作りますが、蜜を大事にしまっておかなければならないミツバチはこうした蜜蝋で巣を作ります。ミツバチの貯蓄性がうかがわれるところですね。

ミツバチの巣を手にする池上さん(中)。手前は武田キャスター、奥は小松さん

よく観ることよく考えることから始まる
武田 ミツバチの管理ノートをつけているそうですが。
池上 昭和38年から記録しています。小松さんのような専業の養蜂業は、蜜を追って動いていくわけですが、私のところは庭で飼っています。ミツバチが蜜をためるのは、人間が採るためではなくて種族の繁栄のためですから、非常に難しいわけです。例えば、群が良くなれば、約半分のハチを連れて外へ出る〈分蜂〉をします。そうすると、絶対に蜜は採れません。そうかといってハチが少ないと蜜は採れない。ですから、群を大きくしながら、分蜂しないようにすることが大事になってきます。
武田 それは、実際に飼っているなかで発見したことですか。
池上 そうです。
武田 蜂を飼いはじめたきっかけは。
池上 昭和21年に東京から引き揚げてきました。小さい頃に結核を病んだこともあり、当時、胃の調子があまりよくありませんでいた。まだ砂糖が配給で、その代わりにサッカリンを使っていた時代です。その頃、親戚が飼っていたミツバチを分けてもらい、蜜を採るために飼い始めたのが最初ですね。今年で57年目です。
武田 それからずっと、このノートに記録しながら研究を。
池上 私たちは、極端に言えば1日の中で違う方法で仕事をすることがありますが、ハチは1つ条件を変えると、比較するのに1年かかるわけです。それで、常に3群のハチを飼って、そのうち2群は普通の飼い方を、1群は1つだけ条件を変えて、その結果を見て、いいと思うことをするようにしていくわけです。
武田 池上さんの巣箱は緑色に塗られていますが、それも研究の結果から―。
池上 我流ですが、ミツバチが色を感じるかどうかを試したんです。白いままの箱と黒い箱、空色の箱で試したところ、緑色の箱がいちばんいいという結果だったので―。

長年の観察、研究の結果から、現在の池上さんの巣箱は緑色に塗られている

ミツバチに学んだ経営哲学
武田 ミツバチから経営を学んできたそうですね―。
池上 企業を経営する中で、「自己資本」ということが非常に注目されていますね。ハチで言うと、越冬する時にじゅうぶんな蜜がないと困る。人間はわかりませんが、周囲に蜜源がなくなると、まず女王蜂は産卵をやめてしまう。それでも蜜が少なくなると、産んだ卵を取ってしまい、幼虫まで出してしまいます。
武田 口減らしですね。
池上 そうです。ハチを飼っていて、小さな巣、小さな群れをたくさん持っていても蜜は採れません。蜜を採るためには、巣の数を増やさず、巣の中も充実させることです。
武田 これを人間の生活に置き換えると…。
池上 今、企業でも借り入れが多いために問題がおきていますね。自己資本というものをもう少し充実させることは、私はハチから教わりました。
武田 自己資本をしっかりして、自主自立をしなければいけない、ということですね。たくさん支店を作って手を広げて失敗したという企業も多いですから…。
池上 私自身、企業の規模を大きくすることは一切考えたことはありません。

ミツバチの危機管理に学べ
武田 危機管理の面ではいかがですか。
池上 ハチの巣箱を開けて、振動を与えたりすると、危機を感じて刺します。巣箱に入っている枠でハチを一匹つぶすと、そこにさっとハチが集まってきて刺します。自己防衛ですね。巣の入り口にスズメバチなどが1匹来た時は、門番役のミツバチが働きバチに知らせ、働きバチが防衛に出てきます。そして、ミツバチが球状になってスズメバチを囲ってしまいます。文献で調べたところ、その球の中の温度は42度にもなっているようです。
武田 外敵が来ると、みんなで囲んで温度を上げてやっつけてしまう…。
池上 自己防衛です。スズメバチがたくさんやってくると、巣から出てきたミツバチがどんどん食べられて、30分もすると死骸が山になってしまいますが…。ミツバチは、外敵に対しては非常に敏感。企業でも自己防衛をしなければと言ってきました。
武田 それと危機管理。何かあった時は自分で気がついて対処する方法を見つける、ということですね。
池上 そうです。常にどういうことが起こるだろう、と考えて経営することが大事だと思います。
武田 ミツバチはよく働く、と言われます。そういうところからも学ぶことが―。
池上 ミツバチは、生まれてからの日数によって職責が違いますね。産まれたばかりのミツバチは、3時間ほどすると巣の中の掃除を始めます。次に、自分の後輩のハチに、最初はローヤルゼリーを少しだけ与えて、続いて花粉と蜜を与えて育てる仕事をします。そしてもう少し経つと、女王蜂の食事の係を、次に蜜蝋を出して巣を作る仕事をします。20日ほどすると、30分ほど試験飛行をして自分の巣を覚えて、花粉や蜜を集めることをします。働きバチの生涯はわずか40日ですが、じっと観察していると、夏は薄暗いうちから働いて、夕方暗くなるまで働いています。女王蜂は、多い時は一日に1500個から2000個も卵を産んでいます。
武田 女王蜂もそうやって自分の役割を果たして働いているわけですね。
池上 夏の夕方、「今日は夕立が来るよ」と言うと、「まだ陽が当たっているから大丈夫だよ」と言われる。すると、30分ぐらいすると夕立が来るんですね。どうしてわかるかというと、夕立が来る少し前になると、ミツバチがどんどん巣に帰ってくるんです。
武田 ハチがそれを予知しているということ。
池上 そうだと思います。危機管理ですね。
小松 そうですね。雨が降る時には、本当にハチたちは急いで帰ってきますね。


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