2004年1月24日放送 

長野県公共事業評価監視委員会 野口俊邦委員長

変わる!公共事業A
長野県から発信する公共事業の新たな視点

地域住民の必要性に応じた尺度で見直す 身の丈の公共事業

公共事業は、いうまでもなく国民の税金による公の事業。国や地方自治体の財政難などを背景に、「誰のための事業か」という基本姿勢があらためて問い直されている。
今回のいなまいニューススタジオは、先週に引き続き、長野県公共事業評価監視委員会の野口俊邦委員長をゲストに迎え、これからの公共事業のあり方、住民、納税者としての姿勢など、さらに詳しく聞いた。
写真:武田徹キャスター(左)と野口俊邦さん

野口俊邦(のぐち・としくに)さん
信州大学農学部教授。森林科学科所属。専門は林業経済学。森の役割や価値を見直すべきとして、森林整備に力を入れる長野県政にも具体的な提案をしている。佐賀県出身。写真右

残事業費の約5分の1を縮減
武田 これまでの公共事業は、住民も気を配ってこなかったという点もあるのでは。しかもバブル経済のころは、公共事業も、やれることは全部やってしまおうという雰囲気があった。当時は環境問題に対する住民意識も低かった。財政がひっ迫してきて、公共事業を考え直さないと大変なことになる―ということも。
野口 最終的に負担を受けるのは県民、国民ですから。我々も県民の代表という意識で審議してきましたが、やはり県民一人ひとりが考えることが前提かと思います。
武田 見直しの状況については。
野口 まず、事業区分について、「見直して継続」「計画変更」「一時休止」「中止」に変えました。平成15(2003)年は、53事業のうち中止が14事業。そのうち8事業がダム関係です。話題になった下諏訪ダム、浅川ダムなど…。ほかには、公園に人工的なものを造る計画だったものを中止して、森林を生かしながら県民の憩いの場、学習の場にしていこう―と。結果的には、全体の約3割が旧来計画のままで、あとはかなり大幅な見直し、変更、中止―ということになりました。
武田 予算の面で見ると。
野口 53カ所について、約5334億円の総事業費のうち、中止も含めた見直しの結果、約322億円が縮減されました。
武田 かなり大きいですね。
野口 残りの事業費、約1471億円に対する割合でいえば、約21%の縮減。総事業費に対しても約6%ですから、ここまで切り込んだ見直しというのは、今までなかったことだと思います。



求められる総合的視点
武田 昨年12月に提出された意見書のポイントは。
野口 我々も驚きましたが、過去の災害に対して、新聞記事などはありますが、データを県が持っているかというと、必ずしもそうではない。過去にどんな災害があったのか、ちゃんとおさえておかないと、どこに集中的に工事をなすべきかがわかりませんね。データを整理して、地域住民に説明していくことが必要で、地域住民もその中で判断していく―ということになります。
武田 今までの公共事業では、必ずしも、そういった記録に基づいていなかった…。
野口 細かく、教訓として生かせるようなものが十分整理されていないということですね。それが現状なんです。民間の開発が、そうした過去のデータに関係なくされるのではなく、県がデータに基づいて、危険地域では開発を止めさせるなどの勧告ができるような、そういう基礎的なデータの整理が必要―と。
武田 考えてみれば当たり前のことですね―。
野口 はい。それから、大筋として、ダムに頼らないで、水田や森林、ため池などの自然の力を利用したり、地域住民も参加して防災対策を考えていくなど、ソフト的な問題も含めてやっていかないと。ダムを造れば万能というわけではないということです。基本的には、ダムなし案を支持しましたが、ある程度住民も納得した形で早急に代替案ができることが必要です。
武田 流域住民の皆さんの参加が重要になってきますね。
野口 そうです。一番安全性にかかわるのは地域の住民ですから。ため池や棚田は、かつて水を貯留するなどの役割を果たしてきました。それが今、どんどんつぶされたり、放置されたりしています。これらを地域住民と協働しながら維持管理していくことによって、その保全、保水機能も活用した総合的な対策が必要ですね。
武田 ということは、縦割りではなく、役所でも総合的にやっていかないと―。
野口 そうですね。この再評価委員会という県の内部の組織でも、各部がかかわってはいますが、具体的な事業については縦割りになってしまう。ところが、最終的にその事業を受けるのは地域ですし、そこには、農業、林業、開発…と分けられない面がありますね。最終的には総合的なかたちで、自然の力もできるだけ活用しながらということが必要と思います。

栄村の「田直し」「道直し」事業
武田 県内各地を訪れるなかで、公共事業に関して気づかれたこともありますか。
野口 一つの典型的な例は、国の大規模な公共事業に対して、自分たちの地域の事情に合った、身の丈に合った、しかも必要な措置をしている下水内郡栄村です。例えば国の事業に基づくと、幅6bの立派な道路になったり、ほ場整備では10eあたり180万〜200万円かかる。その中の半分は農民負担ですから、大変です。それを、村の単独事業として「田直し事業」「道直し事業」がなされています。例えば「田直し事業」だと、村で水田の現場に詳しいオペレーター付きの機械を持った人とリースの契約をして、具体的な見取り図を書かずに、水田の持ち主とオペレーターが現場に行って、そこで打ち合わせながらやる。予算は、40万円。
武田 国でやる場合の5分の1。
野口 そうです。その40万円のうち20万円は村が補助、残り20万円は農民負担になります。これを5年間で返済する。そうすると、1年間当たり4万円。栄村では、だいたい米の値段が1俵2万円ですから、2俵分ぐらいの値段になるわけで、これなら負担に耐えられるだろうと―。
武田 「道直し事業」は…。
野口 栄村は豪雪地帯ですから、朝3時半ごろから、村で雇った除雪隊の人たちが、朝7時前までに除雪を済ませてしまう。幅3・5b〜4bの必要最小限の細い道も、村が雇った人たちが道を作っていく…。そうすると、1平方bあたり1万円でできる、ということで―。自分たちの村の予算や農民の負担から考えると、ここまでが限度ではないか、というところで知恵を出し合って、身の丈に合った小規模な事業を行っていく。それに比べると今までの国の事業は、どこでどう懐が傷むかがほとんどわからないまま、国民の税金が湯水のごとく使われてきた。国の尺度ではなく、地域の住民の必要性に応じた尺度で公共事業を見直す、ということです。
武田 それぞれの市町村でも、知恵を出し合えば可能ですね。そのことが地域を見直すきっかけにもなりますし、自立にもつながっていくことですね。
野口 今までは国の補助事業にそのまま従えば、なんとか公共事業が入ってくる、土建業をはじめ一定のお金は入る―ということでした。ただ、多くは大手のゼネコンがやっていたので、利益は東京に吸い上げられていた。地元は下請けのまた下請けという部分がありましたが、そういう時代ではなくなってきていますね。栄村では、除雪をして道ができると、そこにヘルパーなどが入り、ほ場整備とも組み合わせる―というように、村の中で循環していく、総合的に関連していく仕組みを作り上げているので、村の中で循環しますから、経済効果も非常にいい。雇用機会も増えている、ということもあります。
武田 非常にいいことですね。
野口 はい。今後、地域が独自に生きていく上での一つの教訓を与えているのではないかと思います。

環境優先の時代へ
武田 ダムで思うことは、あのダムの耐用年数を考えていないのではないか、ということです。耐用年数がきたら、壊さなければならない。そういうことを考えてこなかったのでは、とも思います。
野口 一応、計算上は耐用年数を100年と設定しているそうですが、山が荒れて流木や土砂がたまり、10年もしないうちに使えなくなった―という例も聞きますね。
武田 それと、場合によっては、流域住民の移転も考えたり、河畔林を植えたり、総合的な対策をする上で、住民が協力していかないとできない―。
野口 そうですね。地域の住民の生命をどう守るかも大きな観点。生活や将来の見通しを保障しながら、安全な場所への移転を考えたり、そこには危険にさらされるような公共事業を造らないなど、総合的、長期的な視点で考えていかないと、ちぐはぐな今までのやり方が残ってしまう気がします。
武田 これからの公共事業、変わらざるをえないでしょうね。
野口 環境ということと、公共事業―ある意味で開発ですよね。そこをどう両立させていくのか。今までは開発至上主義的な部分がありましたが、世界的に見ると、環境の方を優先させなければいけない時代になりました。そこを、住民が変える力になっていかないと、変わっていかないのでは、とも思います。

【公共事業評価監視委員会】
県庁内にある県公共事業再評価委員会(委員長=副知事)から、公共事業見直し案の提示を受け、事業着手から一定期間経過した公共事業について審議。県は、委員会の審議結果を尊重、計画変更、中止などを決めていく。委員は、県内外の学識経験者、自治体、経済界など12人で構成。平成14、15年の2年間、野口俊邦信州大学教授が委員長を務めた。
この2年間で計61事業について審議し、具体的な事業見直しだけでなく、公共事業のあり方についての基本的な考え方を提示。県に提言書、意見書として提出した。


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