2004年1月17日放送 

長野県公共事業評価監視委員会 野口俊邦委員長

変わる!公共事業@
長野県から発信する公共事業の新たな視点

住民監視のなかで 行政と住民の協働

長野県では、田中知事の脱ダム宣言を一つのきっかけとして、公共事業見直しという波がおこっている。昨年は、県が見直しを決めた8つのダム事業の中止が決まり、代替案など今後に注目が集まる。
果たして誰のための公共事業なのか、住民側に必要な意識の変革は何か―。県、国の財政が厳しさを増す中、巨額の公金が費やされる公共事業に、我々住民も無関心ではいられないだろう。
今回のいなまいニューススタジオは、長野県公共事業評価監視委員会の野口俊邦委員長をゲストに迎え、2回にわたって、委員会の公共事業見直しの経過や、公共事業のあり方について聞く。
写真:武田徹キャスター(左)と野口俊邦さん

野口俊邦(のぐち・としくに)さん
信州大学農学部教授。森林科学科所属。専門は林業経済学。森の役割や価値を見直すべきとして、森林整備に力を入れる長野県政にも具体的な提案をしている。佐賀県出身。


県民の立場で公共事業を考える
武田 公共事業評価監視委員会の委員になって、一番感じる点は。
野口 この委員会は前知事の時からあったわけですが、どちらかというと、国の補助事業としてくる公共事業が、ほとんどそのまま認められるという性格があったと思います。ところが、田中知事になり、脱ダムを含めて公共事業を見直すという中で、その妥当性、本当に必要なのか―ということを、県民サイドで見直す役割を担った監視委員会、という性格になった。これまでとは、かなり違う印象を受けました。
武田 公共事業評価監視委員会の役割は。
野口 河川、ダム、道路、下水道などの公共事業は、規模が大きいので、長年かかります。その際に、例えば計画が出されて10年ほど経っても着工されない、あるいは着工されても本当にこれでいいのか、続行すべきなのかどうかを審議する県公共事業再評価委員会があります。そこで作った原案を、この公共事業評価監視委員会で審議する。その結果を尊重して、知事は実行する―という仕組みになっています。
武田 すでに着工済みのものでも見直しして、途中で止めるものも含まれる。長い時間がかかっているものは評価が難しいですね。
野口 時代が変化しますので―。その当時ある一定の必要性があったとしても、状況によっては必要がない、ということに。例えばダムなどは、水需要が今後増えるだろうと造ってきたところが、今、日本全体を見てみると、長野県だけでなく全国的にも、中止事業が96年以降89事業もある。そのように時代の状況の変化に見合って、当初必要とされた公共事業が、必ずしも必要なのか、場合によっては、そんなに大規模な予算を使ってやるまでのことはあるのか、縮小してもいいのではないか―ということも含めて、見直しが必要、ということになっているわけです。
武田 これまでの審議経過は。
野口 まず議論したのは、「もともとこの事業は必要だったのかどうかまで議論できないか」ということ。公共事業のあり方までさかのぼって、ある一定の提言をするとすれば、委員会の任務を少し逸脱しても、その任務の中に、公共事業のあり方なども含めて議論すべき―ということになりました。国民のため、というよりは国家益が追及され、例えば山は荒らしてダム機能が衰退しても、そこに人工物としてのコンクリートダムを造る―こんなことでいいのか、ということも含めて考えよう、と。
武田 そして、平成14(2002)年は、8事業すべてを差し戻し―。
野口 本当に県民の立場で必要性があるのかどうか、整合性があるのかなど、審議が尽くされていないということで。例えば、治山工事、防災工事が行われている場所で、別荘開発がなされている―など、非常にちぐはぐじゃないか、と。個別に考えられても、総合的に考えられない、あるいは、なぜ新しい開発がされたかという歴史的関係も含めて検討されていない、ということもありました。結果的に、事業費約13億円縮減、平成15年には53事業を見直し、ダムを除いて約323億円を縮減しました。



「事前評価」・「再評価」・「事後評価」
武田 提言書のポイントは。
野口 委員会では、公共事業の『再評価』を担当したわけですが、ポイントは『事前評価』。つまり、公共事業を行う時に、それが本当に必要なのかどうか、そのような規模として必要なのかどうか、代替案もあり得るのではないか―と、計画の妥当性をまず議論しなければ。8事業を見直した平成14年の段階でも、もどかしさがありました。そもそも、というところから議論すべきだと。それから、5年、10年と経った時に『再評価』する。そして、経過が非常に長く、時代の変化もあることから、結果的にどうだったのか―と『事後評価』する。そのことが、次の新しいことを始める時の『事前評価』にもつながってくる。この3つをセットにしなければ、というのが、提言書の大きな主旨になります。
武田 具体的に、公共事業のあり方については。
野口 公共事業というのは、地域の社会資本整備ということになりますが、その場合でも環境保全、あるいは修復していくこと―例えば水田や森林など、自然の力、生態系を生かしていくことがなくては、と。
武田 特に、生態系について言われ始めたのは、つい最近のことですね。
野口 高度経済成長時代、まさに土建国家で、それが地域振興につながるし、日本経済も発展させる、ということにひたすら走ってきたわけで。それが、1990年代ぐらいから、世界的にも環境問題が言われ、その流れの中で公共事業も見直すべきだという考え方です。公共事業というのは、最終的に地域の住民、県民が利益を受けるということですから、そういう人たちの総意に基づいて実施すると同時に、行政と住民の協働の事業であるという観点。これまでは、行政から与えられると、住民は、無批判とまでいかなくても、それを突き返すエネルギーはあまりなかったわけですが、今は少し状況が変わってきているということですね。
武田 これまでの公共事業が、多方面への配慮がされていたわけではなかった、という気がしてきますね。
野口 そうですね。公共事業をやって社会資本整備をすれば、それで国民生活も豊かになるし、産業も振興されるという神話がありましたね。たまたま経済が上向きの段階では、そこにあまり疑問がなかったわけですが、経済が落ち込んでくる、不況の状況の中で、湯水のように公共事業にお金を使っていくことに、問題が多いところがたくさんある。それに対する反省が、長野県の場合は田中知事の登場の中で、意識の変革がかなり早く、あるいは急速におこっているところだと思います。
武田 そうですね。
野口 ところが、国はまだ、そこまで行きついていない。ですから、まず長野県から、公共事業のあり方を見直してみよう―というのが、我々が力を入れたところです。

未来に対する視点
武田 お話を聞いていると、『事前評価』の大事さ、未来に対する視点が、我々住民にとっても大事だということを感じます。
野口 利便性や経済効率性を優先的に考えていた、そういう基準に対して、地域の人々の環境保全や安全、何よりも財政的に厳しいという状況の中で、果たしてその事業が適切なのかどうか。やはりその時点で将来を見通しながら、人口はどうか、経済はどうか―という予測を含めて『事前評価』をすることが必要だろうと思います。予測ですから、必ずしも100%当たるわけではありませんから、そこで、それに見合う『再評価』も必要だし、最終的にまた違ってきているかもしれないから、『事後評価』も必要。この3つの安全装置を作っておかないと。どれか一つだけでは十分ではないということです。
武田 我々住民も、そういった社会的関心を持って、これからどういう公共事業が本当に必要なのかを、いつも考えていないと―。
野口 そうですね。国と国民、県と地域住民の協働、この観点を住民がもっと自覚し、そして、積極的に参加したり意見を言ったり―住民監視の中で公共事業をやっていくというだけの国民的な力量の向上が、その国の公共事業のあり方を決めてくる、ということになると思います。

公共事業評価監視委員会
県庁内にある県公共事業再評価委員会(委員長=副知事)から、公共事業見直し案の提示を受け、事業着手から一定期間経過した公共事業について審議。県は、委員会の審議結果を尊重、計画変更、中止などを決めていく。
委員は、県内外の学識経験者、自治体、経済界など12人で構成。平成14、15年の2年間、野口俊邦信州大学教授が委員長を務めた。
この2年間で計61事業について審議し、具体的な事業見直しだけでなく、公共事業のあり方についての基本的な考え方を提示。県に提言書、意見書として提出した。


製作:伊那毎日新聞社 All Rights Reserved (C) 2005  制作協力:Fieldwork