| 武田 |
この屋根を大きく葺き替えたのは、今からどのぐらい前のことですか。 |
| 平出 |
40年ぐらい前になるでしょうか。 |
| 武田 |
そのころは、職人はたくさんいましたか。 |
| 平出 |
伊那市美篶の職人が中心になって、秋田県や山形県から来て―。 |
| 武田 |
土蔵の中に昔の茅が保存されていたそうですが。 |
| 平出 |
今回葺き替えるために土蔵から出しました。 |
| 吉澤 |
軒下で、雨に当らないように保存されているので、十分使えますね。それから、しっかりしていますし、きっと当時は茅場が管理されていたんでしょう。とてもいい茅でした。今ではあまり見られないような―。 |
| 武田 |
家の中の障子にも仕掛けがありますね。 |
| 吉澤 |
建具にも夏用と冬用がありまして。障子をはずすと格子だけが残って夏用になる―というような工夫がされています。知恵ですね。 |
| 平出 |
昔の大工さんが一つひとつ手づくりのものです。今は年間通して障子をはめたままですが…。 |
| 武田 |
庭の松にも意味があるそうですね。 |
| 平出 |
これは作られた松ですね。生け花で「天地人」といいますが、一番高く上がっている枝を天の枝、真ん中を人の枝、下の枝を地の枝。そういうふうに作られています。 |
| 武田 |
実際に茅葺の家に住んでいて、どうですか。 |
| 平出 |
冷房がないころには、近所の人がよく「この家は涼しいね」と休みに来ました。夏は涼しいです。冬は寒いですが。部屋が大きいですからね。 |
| 吉澤 |
式台(〓表座敷に続いて家来が控えている部屋)があるというのは、幕末の住宅の特徴ですが、このお宅の場合は2階が発達していて、柱の何本かが2階まで通っています。そうした棟を支える柱が多いのが、この家の特徴ですね。 |
| 武田 |
それは、この地域に独特のものですか。 |
| 吉澤 |
おそらくそうだと思います。 |
| 武田 |
こういうお宅に住んでいると、屋根の葺き替えをするにも大変ですね。 |
| 平出 |
維持していくのは大変ですね。 |
| 武田 |
若い方にも、こういったお宅の魅力を感じてもらうためにも、なるべく多くの人に見てもらいたいですね。 |
| 吉澤 |
そうですね。実際に触れて見ていただいたりすると、良さがわかると思いますね。 |
| 武田 |
生け花の仕事で、ほとんど世界中に行っているそうですね。 |
| 平出 |
国際交流基金の派遣で、各大使館を通して、生け花、日本文化の紹介ということで、あちらこちらの国へ行くわけです。 |
| 武田 |
そこで、現地の植物を使って生け花をするわけですね。 |
| 平出 |
そうです。生け花というと、お座敷に座っているイメージかもしれませんが、海外に行くと、自分の足で材料を集めなきゃならない。外国の花というのは、盛るものが多いので、花はあるけれども、葉がついていないものが多いですね。一方、日本の生け花は葉が大事。外国では花といえば草花、日本では樹木も花と見ています。ですから、外国では、樹木、枝のものはどこでも売っていない。自分で野へ行き、山へ行き、場合によれば木に登って採って生け花をするわけです。 |
| 武田 |
外国の皆さんは、日本の文化である生け花を、どんなふうに見ていらっしゃいますか。 |
| 平出 |
ものすごく関心がありますね。関心が高まったきっかけは進駐軍(第2次世界大戦後、日本に駐留した米軍)なんです。進駐軍が家族を連れて日本へ来て、珍しいので生け花を始めた。そしてそれぞれの国へ帰って生け花をやった。ところが、日本的な生け花の見つめ方を外国人は知りませんから、大変もの珍しかったんですね。今でも、外交官で海外へ赴任する場合、必ず生け花の講習を受けて行くわけです。 |
| 武田 |
日本人の皆さんよりも、外国の人のほうが、日本文化の生け花を大事にしている面も―。 |
| 平出 |
そうなんですね。日本も、昔からそうですが、海外のものが珍しい、海外のものがいい、という傾向がありますね。現在、日本の伝統文化に若者もあまり目を向けない。そうなってくると、これからは日本の伝統文化を海外で習わなければ、という時代が来るのではないかと思うわけです。ですから、今年初めて、文化庁が、小学生と中学生を対象にして、日本の伝統文化子ども教室というものを始めました。 |
| 武田 |
それは家屋についても言えますね。日本は木の文化。ところが木や茅葺のものを重要視しなさすぎた。 |
| 吉澤 |
我々建築に携わっていてもそうですが、木の種類がわからないとか、そういうことがたくさんありますね。 |
| 武田 |
このごろになって、ようやく茅葺の民家などに注目しはじめた。たとえば、合掌造りで知られる白川郷に住む知人は、英国にたくさんある茅葺の家を見て驚いて、茅葺に対する見方が変わったと言っていました。 |
| 吉澤 |
海外に行くと茅葺はずい分多いですね。現代の新築でも茅葺がありますから、若い職人もいます。 |
| 平出 |
今回、幸いにも屋根を修理していただきましたが、職人さんは80歳とか、76歳…。ほかにも傷んでいる場所を直したいですが、あまり先にいくと職人さんの心配もあって―。これから先、どうやって屋根を葺く人を探したらいいのかと思いますね。 |
| 吉澤 |
こういう家を大事にしてくれる人がいれば、仕事も出てくるので、若い人も訓練する場が増えてくることになりますね。 |