2003年12月13日放送 

平出昌雲さん 吉澤政己さん

シリーズ かやぶき民家のある風景A
かやぶき屋根の家に暮らす

茅葺を守り続けて 生け花と日本文化と茅葺屋根の暮らし

箕輪町北小河内の平出昌雲さん宅は、今から約150年前、幕末に建てられたとされる茅葺(かやぶき)屋根の住宅だ。晴れた日には薄い灰色に、雨の日には苔(こけ)が発色して美しい緑色になる茅葺屋根。平出さん一家は、縁側や雨戸も昔のままに暮らしている。今年11月には、傷んだ北側の一部分の葺き替え作業をした。
今回のいなまいニューススタジオは、先週に引き続いて特集「茅葺屋根のある風景」。茅葺屋根の家に住み続ける平出昌雲さん、葺き替え作業にかかわった吉澤政己さんをゲストに迎え、住む側から感じる茅葺屋根の姿、日本文化の有り様などについて聞いた。
写真:右から武田キャスター 平出昌雲さん 吉澤政己さん

平出昌雲さん
小原流研究院副院長。日本いけばな芸術協会評議員。外務省、国際交流基金などの派遣で、日本文化いけばな指導のため、世界中に出かける。
箕輪町で生まれ、小学生のころは神戸に住む。戦後、故郷の箕輪町に帰省。青年会に入ったところ、女性のために文化部で習うものがなかったため、平出さんが提案して生け花を始めることに。それがきっかけとなって、現在に至るという。77歳。

吉澤政己さん
1990年、信濃建築史研究室開設。行政などからの依頼を受け長野県内の貴重な民家群などを調査し、資料として残している。またNPO法人信州伝統的建造物保存技術研究会に参画し、職人の技の伝承、民家の保存活動などを継続的に行っている。現在、同副理事長。茅葺屋根の住宅については、茅の調達、職人の手配などに尽力。若き茅葺職人を待ち望む。工学博士。伊那市富県。49歳。
茅葺屋根などの問い合わせは信州伝統的建造物保存技術研究会
0265・77・2780

茅葺・障子・松の古木
武田 この屋根を大きく葺き替えたのは、今からどのぐらい前のことですか。
平出 40年ぐらい前になるでしょうか。
武田 そのころは、職人はたくさんいましたか。
平出 伊那市美篶の職人が中心になって、秋田県や山形県から来て―。
武田 土蔵の中に昔の茅が保存されていたそうですが。
平出 今回葺き替えるために土蔵から出しました。
吉澤 軒下で、雨に当らないように保存されているので、十分使えますね。それから、しっかりしていますし、きっと当時は茅場が管理されていたんでしょう。とてもいい茅でした。今ではあまり見られないような―。
武田 家の中の障子にも仕掛けがありますね。
吉澤 建具にも夏用と冬用がありまして。障子をはずすと格子だけが残って夏用になる―というような工夫がされています。知恵ですね。
平出 昔の大工さんが一つひとつ手づくりのものです。今は年間通して障子をはめたままですが…。
武田 庭の松にも意味があるそうですね。
平出 これは作られた松ですね。生け花で「天地人」といいますが、一番高く上がっている枝を天の枝、真ん中を人の枝、下の枝を地の枝。そういうふうに作られています。
武田 実際に茅葺の家に住んでいて、どうですか。
平出 冷房がないころには、近所の人がよく「この家は涼しいね」と休みに来ました。夏は涼しいです。冬は寒いですが。部屋が大きいですからね。
吉澤 式台(〓表座敷に続いて家来が控えている部屋)があるというのは、幕末の住宅の特徴ですが、このお宅の場合は2階が発達していて、柱の何本かが2階まで通っています。そうした棟を支える柱が多いのが、この家の特徴ですね。
武田 それは、この地域に独特のものですか。
吉澤 おそらくそうだと思います。
武田 こういうお宅に住んでいると、屋根の葺き替えをするにも大変ですね。
平出 維持していくのは大変ですね。
武田 若い方にも、こういったお宅の魅力を感じてもらうためにも、なるべく多くの人に見てもらいたいですね。
吉澤 そうですね。実際に触れて見ていただいたりすると、良さがわかると思いますね。

【平出昌雲さん宅】
吉澤さんによると、2階部分が発達していることや、式台があることなどから、幕末のころの建物と思われる。敷地内にある土蔵に、数十年前の茅が大切に保管されており、今回の葺き替え作業に用いられた。
庭の中央にある松の木は、樹齢600年以上ともいわれる古木。冬が近づくと、雪折れ防止のため、各枝の下に竹の棒が立てられるなど、大切に守られている。

平出さん宅の庭にある松の古木。樹齢600年とも言われる

日本文化を感じながら
武田 生け花の仕事で、ほとんど世界中に行っているそうですね。
平出 国際交流基金の派遣で、各大使館を通して、生け花、日本文化の紹介ということで、あちらこちらの国へ行くわけです。
武田 そこで、現地の植物を使って生け花をするわけですね。
平出 そうです。生け花というと、お座敷に座っているイメージかもしれませんが、海外に行くと、自分の足で材料を集めなきゃならない。外国の花というのは、盛るものが多いので、花はあるけれども、葉がついていないものが多いですね。一方、日本の生け花は葉が大事。外国では花といえば草花、日本では樹木も花と見ています。ですから、外国では、樹木、枝のものはどこでも売っていない。自分で野へ行き、山へ行き、場合によれば木に登って採って生け花をするわけです。
武田 外国の皆さんは、日本の文化である生け花を、どんなふうに見ていらっしゃいますか。
平出 ものすごく関心がありますね。関心が高まったきっかけは進駐軍(第2次世界大戦後、日本に駐留した米軍)なんです。進駐軍が家族を連れて日本へ来て、珍しいので生け花を始めた。そしてそれぞれの国へ帰って生け花をやった。ところが、日本的な生け花の見つめ方を外国人は知りませんから、大変もの珍しかったんですね。今でも、外交官で海外へ赴任する場合、必ず生け花の講習を受けて行くわけです。
武田 日本人の皆さんよりも、外国の人のほうが、日本文化の生け花を大事にしている面も―。
平出 そうなんですね。日本も、昔からそうですが、海外のものが珍しい、海外のものがいい、という傾向がありますね。現在、日本の伝統文化に若者もあまり目を向けない。そうなってくると、これからは日本の伝統文化を海外で習わなければ、という時代が来るのではないかと思うわけです。ですから、今年初めて、文化庁が、小学生と中学生を対象にして、日本の伝統文化子ども教室というものを始めました。
武田 それは家屋についても言えますね。日本は木の文化。ところが木や茅葺のものを重要視しなさすぎた。
吉澤 我々建築に携わっていてもそうですが、木の種類がわからないとか、そういうことがたくさんありますね。
武田 このごろになって、ようやく茅葺の民家などに注目しはじめた。たとえば、合掌造りで知られる白川郷に住む知人は、英国にたくさんある茅葺の家を見て驚いて、茅葺に対する見方が変わったと言っていました。
吉澤 海外に行くと茅葺はずい分多いですね。現代の新築でも茅葺がありますから、若い職人もいます。
平出 今回、幸いにも屋根を修理していただきましたが、職人さんは80歳とか、76歳…。ほかにも傷んでいる場所を直したいですが、あまり先にいくと職人さんの心配もあって―。これから先、どうやって屋根を葺く人を探したらいいのかと思いますね。
吉澤 こういう家を大事にしてくれる人がいれば、仕事も出てくるので、若い人も訓練する場が増えてくることになりますね。

写真左:南側から見た屋根の一部

写真右:玄関で天井を見上げる―茅葺屋根の内側


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