2002年11月30日放送 

信州大学名誉教授 沖野外輝夫さん

2002年天竜川水系健康診断 諏訪湖と天竜川の水質はいま!?

川ひとつ、水一滴からひとが見える 天竜川水系健康診断結果から

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天竜川流域に住んでいると、「天竜川の汚れは諏訪湖が原因。上流で汚すから下流が汚れる」という声を聞くことがある。しかし、このほど発表された天竜川水系健康診断の結果によれば、長年浄化に取り組んできた諏訪湖は浄化が進み、天竜川の汚染原因は、天竜川に流入する支流流域、都市部周辺にあることが明らかになっている。「上流のせい」にはできない現実と向き合い、流域全体で解決に向かうべき時がきている。長年にわたって諏訪湖浄化の過程にかかわってきた信州大学理学部の沖野外輝夫名誉教授に、諏訪湖を含めた天竜川水系全体の現状、課題について聞いた。
写真:武田徹キャスター(左)と沖野外輝夫さん

沖野外輝夫(おきの・ときお)さん
信州大学名誉教授。(財)資源科学研究所研究員、野村総合研究所を経て昭和48年、信州大学理学部付属臨湖実験所に赴任。湖の水質、生物を研究。平成7年より信州大学理学部物質循環学科、昨年まで信州大学理学部長。天竜川流域委員会の準備委員会メンバー。専門は湖と川の生態学。諏訪市在住。

【CODでみる諏訪湖の水質の経年変化】環境基準(3r/l)に対し、諏訪湖では水質目標値を4.9r/l(第1期諏訪湖水質保全計画・昭和62年〜平成3年)、4.8r/l(第2期〜平成9年)、4.7r/l(第3期〜平成14年)と段階別に目標値をさげ、浄化対策を計画実施。
「これまでは汚染の後遺症のために高い数値だったが、流入する量が減っているため、これから急によくなる可能性がある。この先を期待したい」(沖野)

【天竜川本流CODの平均値推移(平成14年9月5〜6日・24時間調査の平均値)】諏訪湖に最も近い釜口水門で昨年より改善がみられ、中央橋、天竜大橋など都市部を流れる地点で昨年より悪化。水量など気象条件の違いはあるものの、諏訪湖の水質の改善、都市部における対策の遅れが結果に出た。
「流域の各都市の生活排水をそれぞれに処理しなくてはいけない。今まではあまりにも諏訪湖が悪すぎたのでその影響が天竜川へ続いたが、その影響が減ると、流域で汚していた部分が見えてきてしまう」(沖野)

【天竜川支流CODの平均値推移】都市部では昨年と同様に高い値となり、対策がとられていない結果。
「諏訪湖に流入する河川の流域の人もそれぞれ生活排水で川を汚している。下流の人も同じ。たまたま諏訪湖にたまって出てきたものがあまりにも目に見えすぎていたために、自分たちのことを忘れていたと思う。天竜川自体をきれいにするんだったら、自分の身の回りから」(沖野)

水質を決める発生源は陸上にある
武田 沖野さんは、川は下流の大都会に搾取されていると言っていますが。
沖野 水量的に言うと、都会は人が多いですから水が足りない。足りない分は上流から取らざるをえない。ところが使っている人はその水がどこから取っているかはあまり気にせずに使っているわけで。ですからたくさん使ってしまうわけですね。そういう面で言うと、他の人の水を搾取しているということになるわけですね。
武田 そうすると、流域全体で考えないと解決できないですね。
沖野 そうですね。一つの単位ですから。流域全体の状況を改善して初めて水質も良くなるということです。
武田 沖野さんは天竜川流域委員会のメンバーでもありますね。
沖野 国土交通省の管轄内で行うもので、国土交通省でいえば自分で管理しているところが対象ということなんでしょうが、流域というのは〈面〉ですから、本当は省庁の壁を超えて、全域について山の上から、森とか畑も含めて川を管理する方法を検討することが必要だと思うんです。水質を決める発生源は陸上にあるわけですから、それを無視して解決はできません。

諏訪湖の価値はいくら?
武田 今まで諏訪湖の水をきれいにする対策費は、どのぐらいかけられていますか。
沖野 公共の処理場など2千億円。各家庭の下水道工事費用も含めると数千億円という膨大なものですね。
武田 いったん湖を汚してしまうと、それをもとの健康状態にまで戻すには、ものすごい年月とお金がかかるということですね。
沖野 諏訪湖の価値はいくら(何円)かというと、数千億円の価値はあるということでしょうね。
武田 その価値は、わからなかったんですね、そのころには。
沖野 地域の経済としては、その間、諏訪湖を処理場のように使っていて、その分の費用を地域の活性化に使っていたわけですから、そろそろお返しをしないといけないでしょう。
武田 これから一番気をつけなければいけないことは。
沖野 非特定汚染源といって、〈面源〉ともいうもの。下水で集められるものは各家庭、という点から出てきますが、それに対して農耕地や市街地は面積、面から出る。どこから出ているかはっきりしないので、非特定と言っていますが、その中でも窒素成分を除去するのが課題ですね。特に肥料が問題だと。農耕地に関係する部分の水をどこかにためて、そこで窒素成分を減らして下流に流す、ということを逐次やっていくということでしょう。

流域が健康になる仕組みが必要
武田 沖野さんは川一つ、水一滴見れば、わたしたちのすべてがわかる、とも言っておられますね。
沖野 人の顔を見るのと同じ、ということですね。汚すことは、ある程度仕方のないこと。責任を持ってきれいにする努力をする、対策をとるということが大事なんだと思います。
武田 下流にある天竜川も、諏訪湖のように長い取り組みをすればよくなる可能性があるということですね。
沖野 天竜川の場合は、途中で土砂を止めてしまっていますね。これが下流に対していろんな影響がある。これも流域全体で考えないとどこかのダムにたまってしまうわけですから、下流までの解決にならないですよね。
武田 ダムについてはどんな考えですか。
沖野 ダムの使い方というのは、再検討する必要があるでしょうね。今までは治水を主体にやってきたわけでしょうけれど、これからは流域全体の環境を保全する意味でどのくらいのダムが必要なのか、必要ないのか。今まであるダムについても、もう一度見直しをして、流域全体で水と土砂がきちっと流れて、川が健康になることを考えることが必要でしょうね。天竜川流域委員会でも、流域全体で、できれば水源地の森林まで含めて目を通して、流域が健康になるような仕組みを、みんなで考えることができるといいと思っています。

【天竜川水系健康診断】
諏訪湖流入河川、天竜川本流、支流の水質を24時間、2時間おきに13回測定。天竜川水系に恩恵を受ける地域の企業が参加して、産業廃棄物の適正処理などに取り組んでいるリサイクルシステム研究会の主催。6回目の今年は59団体・約370人が参加して9月5―6日に実施された。
測定個所は諏訪湖流入11河川・18カ所、天竜川本流(釜口水門〜河口)13カ所、天竜川支流20河川・22カ所。
測定項目は、おもにCOD(水中の有機物を酸化剤で科学的に分解した時に消費される酸素量。湖沼や海域の有機汚濁の代表的な指標。数値が高いほど汚濁が進んでいる)、BOD(生化学的酸素要求量。微生物が水中の有機物を水がきれいになるまで酸化分解する際に必要な酸素量。水の汚れの指標)、PH(酸やアルカリによる無機性汚染の指標)

天竜川健康診断。24時間水質調査の様子

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