2002年11月16日放送 

宮田昌和さん 硲さくらさん

〜水系とダムを考える〜 いなまいテーブル
矢作川の近自然工法@

「近自然」って何? 官民双方に聞く 愛知県豊田市の試み

自動車産業の“城下町"として有名な愛知県豊田市。人口35万人のこの工業都市で、生態系に配慮した川づくりが官民一体で進められている。コンクリートに極力頼らない「近自然工法」と呼ばれる手法だ。いなまいニューススタジオは、豊田市の川づくりの象徴ともいえる矢作川(やはぎがわ)の古鼡(ふっそ)水辺公園と、中心市街地で川の環境を復元した児の口(ちごのくち)公園をレポート。武田徹キャスターが現地を訪れ、豊田市河川課の宮田昌和係長と、住民の立場から川づくりに参画する硲(はざま)さくらさんに話を聞いた。
写真:宮田さん(右)、硲さん(中央)から話を聞く武田キャスター。宮田さんは河川課の係長として、河川の環境整備を担当。さらに、第三セクター方式で設置される矢作川研究所の事務局長も兼任する。硲さんは市内の川に関する各種団体で構成する「川会議」の代表

人間本位からの脱却
武田 ここは古鼡水辺公園というんですね。「ふるいねずみ」と書く。この公園の辺りの矢作川では「近自然工法」で河川改修を行ったそうですが。
上流から古鼡水辺公園を眺める。伊那谷でも環境配慮をうたい文句にした「多自然型」工法が各地で採用されているが、その違いは一目瞭然?
宮田 川というものは元来「治水・利水」で語られてきました。住民の安全のために、コンクリートで固められてきたわけです。
武田 洪水対策が中心だった。
宮田 そうです。しかし、それではいけないのではないかと。河川にはもともと(人間以外の)生物が棲(す)んでいるのであって、それを大切にしていこうと。15年ほど前に欧州から日本に入ってきたもので、「生物を活かした川づくり」を思想的な部分から考えていこうと。それが近自然工法です。
武田 生物も棲みやすいということは、人間にも楽しめる川といえますよね。
そうなんです。生物にも、川を楽しむ人たちにとっても、ふさわしい川づくりを豊田市がやってくれている。住民としては有難いことです。
武田 豊田市が「近自然工法」を先進的に導入した背景には、何かあるのですか。
宮田 もともと矢作川は「いじめられた川」だった。昭和30〜40年代に非常に開発が進み、川が汚れ、生物は激減していきました。そんな中から「これは川ではない」と住民が高い意識を持った。行政も一緒にやっていこうと取り組み、今日まで来たわけです。

矢作川は長野県南端の平谷村が源流。愛知県を貫き三河湾に注ぐ

自然だから仕方がない
武田 この水辺公園は矢作川のどの辺りに位置しているのでしょうか。
宮田 矢作川は117`の長さがあり、この辺りは河口から約44`。中流域になります。山間部を流れてきた川は、ちょうどこの辺りから扇状地になって堤防ができる所です。
武田 つい最近も、この周辺では大水によって、浸水があったようですね。
宮田 平成12(2000)年9月の東海豪雨で、この辺りでも堤防を乗り越えて、住宅などが水に浸かりました。
武田 そんな浸水被害が出ると、普通の市町村ならば、「コンクリートで護岸してほしい」という要望が出そうな感じですが。
そうですよね。しかし、浸水被害に遭ったこの辺りの人たちは「自然だからしょうがない」という感じだった。もちろん、洪水で水があふれることを望んでいるわけではないのですが、上手に共生していくことの必要性を、皆さん分かっていらっしゃるんだな、と思います。

コンクリートにはない水辺の良さ
武田 近自然工法で行った「水制工」の前に来ています。これはどのような役割を持っているのでしょうか。
宮田 ここは川の形から、水が当たる所。水際は、少しずつ崩れていました。本来ならば、この水際はコンクリートでビシッと固めるわけなんです。しかし、「近自然工法」によって、「水制工」という伝統工法を採用した。「水制工」によって川の中央は早く、護岸の近くはゆっくりとした流れになります。水の緩やかな所に棲む生物、早い所に棲む生物、それぞれの棲み分けができるため、多様な生物に対応する。治水も、環境にも配慮できるわけです。「近自然工法」も河川の整備であって、治水を無視しているわけではありません。やる所はしっかりやって、環境に配慮できる所でやっていこうという考え方です。
川の流れに変化をもたらす水制工。治水にとどまらず、生態系にも好影響を及ぼしているという
武田 ここには自然の砂が残っています。こういう水辺って、今の川にはないですよね。護岸をコンクリートでやってしまうから。
宮田 水辺に近付きたくても、近付けないような構造になっていますね。
武田 このように川に近付ける場所だと、「子どもが落ちるから柵(さく)がないと危険だ」という人が必ずいます。
柵で覆ってしまっても、そのすき間から落ちることもある。ここでは、川岸は流れが緩やかなので、夏などには少しせき止めて、小さなプールをつくって遊ぶ姿もみられます。自然って、とても怖いものですが、親しみやすい所もあると思います。

生物と一緒に、子どもたちも戻ってきた
武田 今度は、児の口公園に来ました。
官庁街や中心商店街の至近距離にある児の口公園。グラウンドやプールを取り壊して造成した空間には小川が復元され、多様な生物、植物がすむ。住民の手によって水田もできた
ここは昔、グラウンドとプールがあったんですよ。
武田 とてもじゃないけど、ここにグラウンドがあったとは思えませんね。ここは市街地のど真中にあるんですよね。ここに小さな川があるのですが、エビなんかがいますよ。魚もいますね。まさにビオトープ空間。
夏にはホタルがたくさん出現します。
武田 住民の意識が高いから、このような公園ができるのですか。
両方じゃないですか。住民がいくらお願いしても、市がそれに応えてくれなければ出来ない。そして、この公園を見守り、管理するボランティアがたくさんいます。
武田 普通だと、公園内の歩道なんかはコンクリートにしてしまう。ここではあえて土にしてますよね。「近自然工法」と関係があるのではないですか。
宮田 そうです。「近自然工法」の思想から造った公園です。
武田 公園の中に水田もあるんですね。この辺りもコンクリートでやっていないから、自然の形になっていますね。この水田は、もともと造る予定だったんですか。
宮田 最初は湿地にして、トンボ池にする計画でした。しかし、地元の人たちが「遊んじゃえ」ということで田んぼにしちゃいました。収穫した稲は、地元の人たちが子どもたちを集めて、もちをついて食べています。
武田 市街地の真ん中に、これだけの緑がある。豊田市も思い切ったことをやりましたね。通常は考えられません。私の近所にも昔は、このような小川がいっぱいありました。全くコンクリートを使っていないから、自然にいろんな植物も戻ってくる。子どもも喜ぶのでは。
宮田 夏になると子どもがいっぱいです。今まで公園にいなかった子どもたちが、戻ってきた、という感じ。生物と同じですね。

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