2002年8月10日放送 

〜水系とダムを考える〜 いなまいテーブル
伊那毎日新聞からの提案

メディアと住民の義務と責任 何が問題なのか

県議会の知事不信任決議を受けた県知事選の告示が迫っています。この不信任の直接のきっかけとなったダム論議は、県民のみならず国民全体も関心を寄せるところとなりましたが、「そもそもダムとは」「本当にダムは必要なのか」「代替案はどうなのか」など、ダムに関して幅広い議論が交わされてきたとは言えず、その一端には詳細な検証を怠ってきたメディアの責任もあるでしょう。また、有権者、納税者、受益者、県民、国民として、身近な公共事業についてどれだけ積極的に関心を寄せてきたか、という点も振り返ってみるべき時にきています。
伊那毎日新聞といなまいニューススタジオは、「ダムと水系を考える」というテーマのもと、これまで詳しく示されることがなかったダムに関するさまざまな多角的な議論点を示す〈いなまいテーブル〉を提案します。テーブルで示した各議論点について、新聞紙上、番組内でチェック、点検し、ダムについて自らの考えで答えを出すことができるよう、議論を重ねていきます。
〈いなまいテーブル〉で用意した議論点(チェック項目)については、今週と来週(8月17日付紙面と番組)にわたり詳しく紹介します。ぜひご活用ください。
写真:〈いなまいテーブル〉を紹介する武田徹キャスター(左)と竹村浩一編集長

〈いなまいテーブル〉提案の背景
武田 いよいよ今月15日に県知事選が告示されるわけですが、振り返ってみて、ダム論議というのは、県議会と前知事で論議がかみ合わない状況がありましたね。
竹村 県議会では、知事の代替案に対して実現性がないという反発があったわけですが、それ以上に知事に対するそれ以外のものがあるという印象がありましたね。一部の論議しかしていないという印象。ほんとうに広い範囲でダム問題をとらえるべきところを、感情的なものもからんで、ダムに関する議論ではなくなってしまった部分もありました。納税者、有権者としても、もっと知りたいという部分があるんですね。これはメディア、報道機関としての責任でもあるんですが、そういうところをお伝えしてこなかった、ダムができる時も、それを細かく検証してこなかった、という反省もあります。
武田 ダムに関する断片的な知識、たとえば「基本高水」なんていう言葉を覚えたり、非常に関心が高まっている時ですが、ダムというものについてよくわからない、という人が大半のようですね。メディアが、そういうことを検証することをしていかないといけないですね。
竹村 そうです。
武田 そこで、〈いなまいテーブル〉というものを用意して、提案していこう、ということですね。
竹村 ここで皆さんに議論していただいて、さらに皆さんが参加して議論をかわす舞台を設定していけたらということです。
武田 皆さんとともにダムを多角的な視点から考えましょう、というのがこの〈いなまいテーブル〉です。


〈いなまいテーブル〉議論点を紹介
武田 さて、ダム問題は非常に多角的な面があります。〈いなまいテーブル〉を詳しく見ていきましょう。
竹村 縦軸に、ダムを「造った」(現状)、「造ろう」(着手済の継続と新規計画の主張)、「造らない」(ダムにたよらないという主張)の3つを置きます。まず「造った」というところで、すでに造られたダムの現状を知り、「造ろう」「造らない」というそれぞれの主張を検証していきます。横軸には「財政」「環境」「生活」「産業」「景観」「決定プロセス」を置きます。たとえば「生活」という面では治水、上下水道、ダムの安全性などの議論点があります。
武田 実は現在あるダム(「造った」(現状))についても、あまり検証されてこなかった部分ですよね。
竹村 意外とそうですね。
武田 そこで、造る場合はどうなのか、造らない場合はどうなのか、という視点から、いろいろな議論点を列挙している、ということですね。
竹村 それから「産業」という面でいえば工業用水、農業用水、電力―という利水の点から、現状のダムは果たしてそれだけの需要があるのか、という議論点、砂利採取業者や建設業者への影響はどうなのか、という議論点もあります。
武田 決定プロセスについては。
竹村 これはとても大事な項目になります。たとえば今までダムを建設する時に、住民に情報公開されていたか、市町村長の対応はどうか、議会はどうか―というものを調べたいと思います。
武田 これまでの場合、あまり知らされていなかった、情報公開されていなかった、といっても過言ではないかもしれませんね。
竹村 そうですね。ダムはできるもの、ということで、疑問を持つということがなかったのかもしれません。
武田 〈いなまいテーブル〉のそれぞれの議論点、これをそれぞれすべて検証してみて、初めてダムは必要なのか、こういう方法もあるんじゃないか、というようなことが見えてくると思います。これまで、多角的な論議があまりにもされなかったということで、この〈いなまいテーブル〉を用意して、皆さんと考えていきましょう。

費用対効果などを検証する「財政」テーブル
武田 さっそく「財政」について考えてみましょう。
竹村 まず、「造った」(現状)。ダム1基を新設するためには数百億円もの事業費が必要です。さらに完成後も、ダムにたまった砂を排除するなど維持対策に巨額の税金を投入しなければなりません。その効果はどうかということですね。莫大な費用を投入しただけの効果はあるのか。いわゆる「費用対効果」という点がチェック項目としてあがります。それから「維持管理費」「建設当時の経済事情」というのもチェック項目となります。
武田 たとえばダムに砂がたくさんたまっているという状況もあるわけですね。佐久間ダムの場合、ダム上流10`地点ではダム建設時より約60bルも河床が上がっています。
竹村 砂は、当初考えられていたより、かなり早いスピードでたまっていますね。長谷村の美和ダムでも同じような状況があります。
武田 続いて「造ろう」という場合と「造らない」という場合の主張、考え方について。
竹村 「造ろう」という場合、ダムは有効な公共事業の一つであり、計画中のダム建設を中止すると、これまで投じられた国の補助を返還しなければならず、ダムに代わる流域対策費を加えると県財政は破たんする、というのが考え方です。これは今問題になっている浅川ダム、下諏訪ダム(田中前知事が計画中止を表明し、県治水利水等検討委で論議が重ねられた)について、県議会が主張しているところですね。この2つの県営ダム中止に関して、「費用対効果」「建設費」についてチェックします。そして、「造ろう」という主張からすれば「補助金の利点」という点もあり、これもチェック項目になります。
武田 「造らない」については。
竹村 無駄な公共事業による国家・県財政の破たんが心配であり、納税者として有権者として不要を訴えるべき。子や孫の代まで借金を返していかなければならない―という考え方になります。検証するためのチェック項目としては「費用対効果」「代替案の費用」「補助金制度の問題点」「現在の経済事情」を挙げています。
武田 この〈いなまいテーブル〉はダムばかりでなく、他の公共事業にも使える議論点を用意しています。伊那毎日新聞、いなまいニューススタジオでは、これから、〈いなまいテーブル〉を使って、ダムについて議論していきます。

長野県の借入金(県債)の状況を示すグラフ
県の借入金(県債)残高は、平成8(1996)年度に県予算額を上回り、11年度以降、1兆6千億円を超える状態が続いている。現在あるダムの維持管理費、計画中のダムの建設費はこの県財政の中で予算化される。
この事実をもとに、〈いなまいテーブル〉「財政」では、「造った」(現状)ですでに造られたダムの維持管理費にかかわる費用など、「造ろう」(着手済の継続・新規計画)で建設費、「造らない」(ダムにたよらない)で代替案の費用などについてそれぞれ検証していくことになる。
たとえば長野オリンピック(平成10年)開催2年前から借入金が県予算額を上回る状況になり、以後、年々借入金が大きく上回り続けている。田中県政スタート以前から長野県財政は厳しい状況にあり、果たしてこの窮状の要因はどこにあったのか、という点についても議論する必要が出てくる。

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