2001年12月8日放送 

飯島敏雄さん

ミクロの生物に魅せられて 「天竜川の珪藻類」

ミクロの世界珪藻類 宝石の輝き放つ生態系の出発点

目には見えないミクロの植物、それが珪藻(けいそう)類。顕微鏡でしか見えないその神秘の世界に引き込まれてしまったのが、飯島敏雄さん(69)=諏訪市=だ。教員だった四十年も前から研究に没頭。休日になると、川や湖に通い詰める。飯島さんにとって珪藻類は「ダイヤモンド」。その宝石の放つ輝きは、自然の生態系、そして我々が生きていく環境までも照らし出している。いなまいニューススタジオの武田徹キャスターが、その魅力と知られざる神秘の力に迫った。
写真:数千倍に拡大した珪藻の写真。手間がかかるため、珪藻の研究者は少ないという

飯島敏雄さん
飯島さんは元中学校長。現在は諏訪市の児童相談員を務めている

酸素の4分の1は珪藻類によってつくられる
武田 珪藻類は川の水質に深くかかわり、これがいなくなると酸素も非常に少なくなってしまうんだそうです。実際の大きさはどのくらいなんですか?
飯島 目で見ることはできません。顕微鏡で千五百倍に拡大してみるわけです。
武田 いろんな種類があるみたいですね。
飯島 世界中で五、六千から一万種ともいわれています。
武田 実はこの珪藻類も我々が必要とする酸素をかなり供給しているそうですが?
飯島 ある学者の研究によると、生物が生きていくための酸素の四分の一は、珪藻類によって補給されているという訳です

写真左:湖沼にしか棲まないタルケイソウが、天竜川に生息する

写真右:天竜川全域に植生するササノハケイソウは、汚い水に広く分布する

水の中のダイヤモンド
武田 どうして珪藻というものに興味をもったのですか?
飯島 木曽谷で生まれ、友達と川遊びしたり、山に入っているうちに、段々自然に興味を持って、将来、自然科学を勉強したいと思いました。大学時代は高山植物を研究していたのですが、同時に水にも関心がありました。水の中の生物をみていくうちに、ダイヤモンドのようにね、宝石箱のような感じに光っているんですね。この珪藻の魅力に取りつかれてしまったという感じです。
武田 この魅力に取りつかれる原点は川遊びだったんですね。
飯島 木曽川で水泳したり、そのなかで興味関心を深めていった訳です。

始まったばかりの珪藻類の研究
武田 珪藻類の仲間も、いろいろあるみたいですね?
飯島 緑藻(りょくそう)類と、諏訪湖のアオコに代表されるラン藻類があります。これも顕微鏡で見ると、輝いている。一日職場で働いて上司に怒られたりして家に帰って顕微鏡をのぞくと、一服の清涼剤になります。
武田 珪藻、緑藻、ラン藻とあって、飯島さんは珪藻を中心に研究されているわけですね。でも珪藻っていうのは研究されてまだ年月がそんなに長くないそうですね?
飯島 顕微鏡の開発と関係があるため、せいぜい五、六十年です。私の研究も三、四十年くらいです。
武田 日本に学者さんはどのくらい、いらっしゃるんですか。
飯島 珪藻を研究している人たちは学会をつくっているんですが、約二百人います。長野県には二十人くらいで「長野珪藻友の会」というのがあります。
武田 どんな方々がメンバーなんですか。
飯島 ほとんどが学校の先生とか、一般のかたたちです。皆さんやっぱり私と同じように、宝石のように輝いているのに取りつかれてしまったという感じです。

珪藻がいなければ魚も食べれない!
武田 酸素を供給している貴重な生物という詰もありましたが、それ以外にも非常に重要な役割を果たしているそうです。藻類がいなくなると、どうなってしまうんですか?
飯島 水の中では珪藻を食べている生物がいます。例えばアユなどは珪藻を食べて生きています。水生昆虫も珪藻を食べて、それをまた魚が食べて生きています。食物連鎖の出発点である珪藻類がいなくなれば、水生昆虫も魚も全部いなくなってしまう訳です。
武田 私たちは普段、川がどうのこうのという場合、魚類を中心に話をしてしまいます。「魚がどうも減っちゃったよ。問題じゃないか」と話題になるわけなんですが、もとは珪藻類だったんですね。
飯島 世界中から万が一、珪藻類がいなくなれば、私たちは魚を食べることができなくなります。

珪藻類は水環境のバロメーター
武田 珪藻類は、そもそも何をエネルギーにして生きているんですか?
飯島 植物ですから、太陽の光を浴びて、水と炭酸ガスでデンプンをつくって生きています。
武田 つまり光合成をしている訳ですね。珪藻の種類によって、水質が汚濁しているか、きれいかっていうのを見分けることができるそうですね?
飯島 笹の葉に形が似ているササノハケイソウは、一般に汚れている水にも棲(す)める生物なんです。無論、きれいな水にもいますけどね。対して唇に似ているクチビルケイソウ、洗濯板に似ているイタケイソウなどは、きれいな水でなければ棲めないという生物です。
武田 なるほど。川を調べて、どちらの珪藻が多くいるかによって、水質汚濁の良し悪しが分かるということなんですね。

湖沼特有の珪藻が天竜川に棲んでいる!?
武田 それでは天竜川はどうなっているんでしょうか。
飯島 本来は諏訪湖のような湖沼にしか棲んでいない、湖沼特有の珪藻にタルケイソウの仲間があります。河川にはあまり棲んでいないという種類ですね。しかし、本来は諏訪湖にしか棲んでいないはずなのに、天竜川の辰野から下って伊那、駒ヶ根、そして飯田の付近までいるわけです。
武田 ということは、天竜川はよその河川と違って、山の清流から流れてくる訳じゃないということが、よく分かりますね。
飯島 普通だったら川の上流に、このような珪藻が棲んでいてはいけないということになりますが、実際にはいるわけです。
武田 珪藻というのは、川の汚濁を非常によく反映している生物だということが分かりました。

諏訪湖抜きには語れない天竜川の水質向上
飯島 汚れを示す特徴的な珪藻類にササノハケイソウがあります。この珪藻がいる水域は大変汚れているといわれています。ふつう上流にはササノハケイソウはいなくて、下流にいくに従って多くなります。でも天竜川の場合には、諏訪湖から出発した時点で、多くいるというのが特徴的ですね。
武田 ということは、天竜川をきれいにするには、諏訪湖抜きにしては考えられないと。例えば、木曽川などはどうなんですか。
飯島 木曽川は上流にいきますと、ほとんどササノハケイソウはいません。多くなるのはようやく、南木曽町の辺でしょうかね。あそこまでいって、いくらか出てくるといった感じです。
武田 天竜川は珪藻類を調査することによって、「だいぶ汚れてますよ」ということが言えますか?
飯島 言えますね。影響は結局、諏訪湖ということになります。天竜川をきれいにするには、諏訪湖自体をきれいにしなければいけないということです。

肉眼では見えないミクロの世界
武田 駒ヶ根のハッチョウトンボがいる湿原で、ほかの所とは大きさが違う珪藻がいるそうですね?
飯島 今まで見つかっていない新しい種類ということになるかも知れません。あそこの湿地帯は貴重な場所ということになりますね。ハッチョウトンボとともに、珪藻類も保護していってほしいですね。
武田 珪藻類を採取して、撮影するにはどれくらい、時間がかかるんですか?
飯島 三、四時間、場合によっては一日がかりですね。
武田 肉眼では絶対見えないんですか?
飯島 大きなものはかろうじて見えるかもしれませんが、ほかのものは顕微鏡でも最低倍率三百〜四百倍にしないと見えません。
武田 では採取する時に、勘だけでやるわけですか。
飯島 そうです。勘でもってやります。珪藻というのは実は、川とか湖だけじゃなくて、ここにある花瓶(かびん)のなかの水にもいるんですよ。
武田 この花瓶のなかにもいるんですか?どうしてこの中にいるんですか。
飯島 珪藻は非常に小さいので、波しぶきと一緒に空中に舞いあがって、風でもって飛ばされていきます。だから、ちょっとした水たまりにも珪藻類はいます。身の回りのごく普通の生物ですね。

環境が大切なのは人も水も同じ
武田 飯島さんは学校の先生もされていました。児童相談員もされているということですが、今の子どもたちの自然とのふれあい状態はいかがですか?
飯島 少ないですね。家でテレビゲームなどをしていて友達と交わることも少なく、自然に興味をもってもらうことも少ないですね。
武田 最初から顕微鏡で見るなんてことは難しいけど、天竜川に入って虫がいたなとか、そういう発見、ふれあいが後の人生に大きなかかわりをもっていますよね。
飯島 動物や植物などを研究している人がいますが、みんな小学校時代にちょっとしたきっかけがあったみたいですよ。例えば、学校へ行く途中に捕まえた蝶(チョウ)を担任の先生に見せたらほめられて、一生涯チョウの研究に取り組んでいる人もいます。今のお子さんには、きっかけが少なくなっているように思います。残念です。
武田 せっかく伊那谷には天竜川という良い川がありますね。そして周りには山があります。もうちょっと子どもたちを自然の中で親しむように、親たちも意識的に働きかけたほうが良いかもしれませんねぇ。やっぱり子どもも環境によってだいぶ変わってしまう。天竜川だって、環境によって非常にきれいにもなれば、ダメにもなるということはありますもんね。
飯島 この珪藻類と同じように、子どもたちが生活していけるのに良い環境にしてあげる必要がありますね。

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